« 季節外れの旭山動物園 | トップページ | 朋遠方より来たりて思う(1) SNSの功績 »

2012/10/24

本棚:「楡家の人びと」北杜夫

Dscn1278「読もう読もう」と思い続けていたにもかかわらず、いつの間にかそのことを忘れてしまい、後になってふっと思い出すような本がある。この本がまさにそれであった。

芥川賞作家にして「どくとるマンボウ」シリーズを代表作とするエッセイストでもある北杜夫は、アララギ派の歌人にして精神科医である斎藤茂吉を父に持ち、精神科医にしてエッセイストでもある斎藤茂太を兄に持つ。まさに「華麗なる一族」に列し、自らも精神科医にして躁鬱病患者という、希有な存在であった。

私が北杜夫の存在を知るに至ったきっかけは、紀行作家として敬愛する宮脇俊三氏のエッセイの中にしばしば登場したことである。
エッセイストとしての処女作である「どくとるマンボウ航海記」を世に出したのは、当時中央公論社の編集者であった宮脇氏である。のちに隣人となり、おおいに親交を深めた両者のエッセイには、お互いがしばしば登場し、作家としての側面とはまた別の一面を覗かせている。

楡家の人びと」は、北杜夫の自伝的小説である。大正の末期から太平洋戦争の終戦に至るまでの、とある精神科医一家とその病院の姿を描いた作品で、人々の見栄と体裁に彩られた感情や行動などが面白おかしく綴られている。この時代の大衆史の史料としても面白い。三島由紀夫も絶賛したという。
文体は「軽妙洒脱」という言葉がぴったりくる。センテンスは短く、リズム感があり、適度な「」が効いている。自伝的小説でありながら、どこか客観的に人間模様を捉え、淡々と記述してあるから余計に面白い。

私はかねてから読みたいと思っていたこの小説の存在をすっかり忘れていたが、先日、図書館の中を徘徊しているときに、偶然にこれを見つけた。「楡家の人びと」は、おそらく近日中に私の自宅の本棚の中に収まることになるはずである。

今日、2012年10月24日は、北杜夫氏の一周忌にあたる日である。

にほんブログ村 本ブログへ

|

« 季節外れの旭山動物園 | トップページ | 朋遠方より来たりて思う(1) SNSの功績 »

本の旅人」カテゴリの記事

コメント

茂吉さんといえば、
のど赤きつばくろふたつ梁にいて
垂乳根の母の死に給う
をすぐに思い出しますが、息子お二人については
お名前と経歴くらいしか知りませんでした。
楡家の人々も題名しか…
忘れていて今というのは何か出会いの妙があるかもですね~
と~まも機会があれば楡家…は読んでみたいです

投稿: と~まの夢 | 2012/10/25 22:21

こんにちは
何故か、北杜夫さんも「楡家の人々」という作品も、名前としては知ってるんですよね
あまり北杜夫という人が好きになれずで、「どくとるマンボウ~」さえも読んだことがないので、こちらにコメントするのは憚られるんですけど㋧
たぶん、先入観があったのだと思いますが
ところが最近(と云っても半年くらい前から)、名前をよく聞くようになって、そう云えば何も読んだことがなかったなぁ、と思っていたところだったんです㋵
それで、いかさまさんのブログでのこの記事、と~まの夢さんの言を借りれば、”何か出会いの妙があるかもですね~”ですね(笑)
私も、北杜夫作品を読んでみたくなりました

投稿: tutatyan | 2012/10/27 10:43

>と~まの夢さん
いつもありがとうございます。
「赤光」ですね。確か中学校の国語の授業で題材になっていたような記憶があります。
僕自身も、斎藤茂吉と北杜夫の関係はのちになってから知ったのですが、そう言われてみると確かにふたりの持つ世界観には、どこか共通のものが流れているような気がしないでもないです。
「楡家の人びと」は、関東大震災や東京大空襲など、大きな出来事を民衆レベルからとらえた記録としても面白いですよ。お時間があれば、ぜひ。

投稿: いかさま | 2012/10/27 23:33

>tutatyanさん
いつもありがとうございます。
本との出会いって、いつもそんなものなのかもしれませんね。
それは誰かのブログだったり、あるいは身近な友達だったり。今まで全く興味がなかったり、知っていても手を伸ばす気になれなかったりした本に手を出すきっかけって、そういうところに眠っている気がします。

もちろん、本も嗜好品ですから、読んだ後でがっかりすることもありますが、どうせならできるだけ偏らずにいろいろなものを読みたいですよね。僕は放っておくとひとりの作家を隅から隅まで追いかける性質なので、余計に気を付けるようにしています。

「出会いの妙」があるといいですね。

投稿: いかさま | 2012/10/27 23:39

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 本棚:「楡家の人びと」北杜夫:

« 季節外れの旭山動物園 | トップページ | 朋遠方より来たりて思う(1) SNSの功績 »