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2013/05/26

いかさまトラブラー【4】忘れ物・失くし物編(2)

「衣類」といえば、もうひとつ忘れられない忘れ物の話がある。

Chubu30日をかけて日本一周をした1995年冬の卒業旅行中の話である。
旅も終盤に差しかかった2月17日、私は新大阪から東京行きの「ひかり40号」に乗った。暖房のよく効いた車内で私は1時間ほどくつろぎ、名古屋で下車して中央本線の中津川行き電車に乗り継いだ。旅の予定はこのまま長野方面へ向かうことになっていたが、私は途中で下車して実家へ立ち寄り、翌日1日をまるまる休養に充てた。

英気を養って19日、私は再び中央本線の下り電車で旅を再開し、中津川で松本行きの電車に乗り継いだ。ところが、暖房の効きがよくない車内で、私は首筋を撫で、大変なものを忘れたことに気がついた。

それはマフラーである。それもただのマフラーではない。私の大好きだった人が、前年のクリスマスプレゼントにとくれた、手編みのマフラーである。それを失くした。彼女は逆切れ気味に私のことをなじるような人ではないが、たった3か月でせっかくのマフラーが消失したと知れば、大いに悲しむに違いない。その後の私たちの関係にも少なからず影響を与えそうである。

私は少し冷静になって、忘れた場所を必死で思い出した。実家を出るときにはしつこいくらいに忘れ物の確認をしたから、実家ではない。その前の中央線の電車に乗ったときは、身に着けたものを一切外していないから、それもない。

だとすれば忘れたのは「ひかり40号」の車内である。
新大阪から新幹線に乗るときには、確かにマフラーは首に巻いていた。けれども、暖房の効いた車内で、私は上着を脱いで膝に掛け、マフラーは窓枠の横のフックに掛けた。おそらく、下車する時に私はよく確認しないで、マフラーをそのままにしてきてしまったものと考えた。

そうなるとマフラーは、東京駅で保管されている可能性が高い。
もちろん、いつぞやの水着事件のように誰かが持ち去らないとも限らないが、ブツはマフラーである。私にとっては唯一無二の品物ではあるが、高級品ではなく編み目の不揃いな手づくり品である。鞄に入っていたわけでもない。だとすれば、金目当ての窃盗変質者の趣味の対象になる可能性はきわめて低い。

東京駅には忘れ物承り所があって、東京駅着の列車内の遺失物はそこに集められ、1週間保管された後警察に引き渡される、という話を聞いたことがある。私はその可能性に賭けて、予定どおり旅を続けることにした。中津川から塩尻、小淵沢、小諸、上田と電車を乗り継いでその日は別所温泉に泊まり、翌日、小諸から大宮、新宿とまわって東京駅へ向かった。

忘れ物承り所は東京駅外れの高架下にあった。私はそこでマフラーの特徴と、忘れたと思われる場所を説明した。
以前にも書いたが、私は旅行に出るたびに細かなメモを残す習性がある。この時も私は、乗った列車名どころか、自分が座っていた号車・座席番号まで克明にメモを取っていた。
胸を張って座席番号まで申告した私を、係員はびっくりしたような表情で眺めた後、「少々お待ちください」と言って奥の保管庫へ向かっていった。

私は待っている間も、これが不発に終わったらどうしようか、と心配する気持ちと、間違いなく見つかるはずだ、という自分への言い聞かせがないまぜになり、ふわふわとした気分であった。ものの数分の待ち時間がひどく長い時間に感じられた。
係員が奥から見覚えのあるマフラーを手に現れたとき、私は不覚にも熱いものがこみ上げてくるのを感じた。

それから身分証明書を提示し、簡単な手続きをして、愛しのマフラーは3日ぶりに私の手元に戻ってきた。ことほどさように、忘れ物はその気になって探せば見つかることも多い。
現在、列車内での忘れ物については、JR各社などでは「遺失物管理システム」に登録され、テレフォンサービスで遺失物の有無や保管場所を確認することも可能になっている。

こうして私は、マフラーをつくってくれた人を大いに悲しませることなくこの危機を乗り切ったのであるが、この半年ほどのち、蜜月関係はもろくも崩れ、今度は私が大いに悲しむことになる。が、それはまた別の話である。

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コメント

やっとコメントができそうな話題に(笑)

いかさまさんが大いに悲しいだ
マフラーを作ってくれた人とのお話は
いかさまトラブラー【8】失くし物(番外編)
あたりで紹介されるのでしょうか? 

久々にコメントしたと思ったらそこかいなっ!

投稿: buzzっち | 2013/05/28 06:34

こんばんは!
ものすごく必死さが伝わりますね。
手編みのマフラーを3ヶ月で無くしたら、それはきっとまずい事態だったでしょうから見つかって良かったです。
結果は悲しいですけれど…
しかし、水着が無くなったのは何故でしょうね…
悲しい話がそこはかとなく面白いです。

投稿: ミナゾウ | 2013/05/29 21:28

>buzzっちさん
いつもありがとうございます。
ようやく食いついていただけたかと思ったらここでしたか(笑)

実はマフラーをつくってくれた人との話は、すでに過去のブログの中に一度だけ登場しています。
お気づきになられましたでしょうか?(笑)

投稿: いかさま | 2013/05/30 00:35

>ミナゾウさん
いつもありがとうございます。

そうですね、なくしたマフラーが見つかった時には、全身の力が抜けるくらいホッとしたものですが、今から考えると残念な結末の先延ばしにしかなっていないという(笑)喜劇じみた悲劇ではありますね。

水着の時も駅に届け出て捜索してもらったのですが、不思議ですね。袋というかカバンに入った状態だったので、貴重品と思われて持ち去られたのか、はたまた単なる変質者の仕業か…  未だに謎です。

投稿: いかさま | 2013/05/30 00:38

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