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2013/05/09

本棚:「海賊とよばれた男」百田尚樹

Kaizoku久々に本の話。

今日の新聞各紙に、タンカーの船首を大きくカラーで写した全面広告が載った。
広告主は出光興産。船の名前は「日章丸」という。今日、5月9日は、初めてイランからの石油を積んだ「日章丸」が川崎港に帰港した日だという。

私はこれを読んで驚いた。この話は、偶然にも今私の手元にある本、「海賊とよばれた男」の中に書かれた話と全く同じである。小説中に登場するタンカーの名前も「日章丸」である。

日章丸事件」という言葉は聞いたことがあったが、不勉強なことにその内容は全く知らなかった。私はちょうど読みかけていたこの本の中で「日章丸事件」の内容を知り、同時にこのとき初めて、この本に出てくる石油商社「国岡商店」のモデルが出光興産であり、主人公の国岡鐵造のモデルが出光興産の創業者、出光佐三であることに思い至ったのである。こうしたことは少し調べればすぐにわかることなのだが、何の予備知識もなく本を読み始めることはある意味恐ろしい

いずれにしても、ちょうど本を読んでいるさなかにこういう偶然があると、読書も俄然楽しくなる。私は残り3分の1ほどだったこの本を一気に読み切った。

今年の「本屋大賞」を受賞した「海賊とよばれた男」について、私ごときがいまさら説明する必要はないとは思うが、この本は、石油に執念を燃やす国岡鐵造の人生を描いた半ノンフィクション小説である。アメリカの石油メジャーに国内の石油需給を牛耳られていた昭和20年代の日本で、自らの力で石油を手に入れるため、社運を掛けてイランへ自社のタンカーを派遣する。その船が「日章丸」である。

ネット上で色々と調べてみると、この本に書かれた出来事はほぼ全て事実をトレースしている。上巻の巻頭にも、作者の言葉としてそれは書かれている。主人公とその周辺の人物、一部の企業名は仮名に置き換えられているが、それ以外はすべて実名である。その理由はわからないが、例えば仮名にすることで、主人公たちの感情の動きに、作者なりの解釈を加えてふくらみを持たせていくことができたのかもしれない。

文章は、私の印象では比較的淡々としている。逸話がいろいろと多すぎるせいかもしれないし、作者があえて抑えて書いているようにも感じる。異次元的な盛り上がりを期待するとすればやや物足りないかもしれないが、史実に基づいた近現代の歴史小説やノンフィクションを読み慣れた私にとっては、すんなりと入ってくる感覚があった。

「日章丸事件」は業界の自由化への扉を開く契機となり、その後の経済への影響は計り知れないものがあったと思われる。歴史に「if」は無意味だが、この出来事がなければ、その後の日本の石油をめぐる情勢はかなり大きく違った筋書きを辿ったに違いないだろう。高度経済成長ははるかに早い段階で頓挫したかもしれないし、オイルショックももっとシビアな形で国民生活に降りかかってきた可能性もある。

日章丸事件から60年、新興国の経済成長を背景に石油の需要は大きく増加し、投機の対象となった原油価格は大きく乱高下している。家庭や工場の電化、エコカーの普及などで日本国内の石油需要は総体で年数%の割合で減少しているが、一方、福島原発事故の影で発電用重油の需要は増している。石油そのものに全く依存しないで人類が暮らしていくのにはまだ相当の時間がかかる。

こうした環境下で、視力は悪くても「先を見通す眼」に秀で、国家と国民を自らの会社以上に大切にした出光佐三、いや国岡鐵造が生きていたら、次にどんな一手を打っただろうか、そんなことを想像してみるのも楽しい。

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コメント

(^.^)お早うございます♪
なんやかんやと取り紛れて、ご無沙汰してしまいました(__)
昨年今年と、北海道は気候が厳しくて大変な思いをされたとのこと、遠くから思う事しかできませんが、早く落ち着いた気候になって欲しいなと祈っています
エネルギーの問題は近代化した世界ではいつも付いて回るものですね
この本の作者、百田尚樹さんは関西の方だそうで、私がいつも聞いているラジオにも何度か出演されていましたので、この本の事は割と以前から話題になっていました
ご本人もこの本の90%はノンフィクションと言われており、その人物や出来事そのものが持つ力に手を加えたくなかったのだそうです
その話をされている時の作者さんは、とても活き活きとされていて、本当に書きたいものを書ききられ、それが「本屋大賞」に選ばれて、心から喜んでられるんだろうなと感じました
今の日本に人たちに、伝えたかった事がすべて書かれているんでしょう
何やら使命感があったそうです
毎回違ったジャンルの話を書かれていて、次の作品が楽しみだと思える作家さんですね

投稿: tutatyan | 2013/05/10 09:59

いかさまさんの文とtutatyanさんのコメントを読んで
機会があったら是非読んでみようと思いましたぁ
ステキな本を紹介して下さって<(_ _*)> アリガトォ

投稿: と~まの夢 | 2013/05/10 18:44

こんばんは!
これ読みたいと思っていたんです。
次はこれにしてみようかな!

投稿: ミナゾウ | 2013/05/11 00:33

>tutatyanさん
いつもありがとうございます。
こちらは木・金といくらか暖かくなりましたが、また今日は冷たい雨が降っています。なかなか安定してきませんね。

百田尚樹さんは「探偵ナイトスクープ」の構成作家をされていますね。私はこの人の本は「永遠の0」以来2作目ですが、お書きになる本のテーマとして底流にあるものは同じだと思います。それはきっと、ご自身が最も大切にしたいと考えておられることなのだろうと思います。だからこそお話にも力が籠るのでしょうし、文章にも力強さがあるのだろうと思います。

大切だとわかっていてもなかなかその境地へは踏み出せない。そういう所を突かれているようで、いつも考えさせられます。

投稿: いかさま | 2013/05/11 21:40

>と~まの夢さん
いつもありがとうございます。
ハードカバー2冊というけっこうなボリュームですが、おそらく読み始めたら一気に行ってしまうと思いますよ。
本の好みは人それぞれなので、一概には言えませんが、読んで損のない本だろうとは思います。

投稿: いかさま | 2013/05/11 21:45

>ミナゾウさん
いつもありがとうございます。
今話題の本ですからね。実は私も買ったわけではなく、上司から借りて読んだのです。なのでやや申し訳ない気持ちです(笑)
でも、もう一度読みたい、と思える本でしたよ。

投稿: いかさま | 2013/05/11 21:47

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