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2013/07/05

お父さんになった日

昨日、7月4日は、長男坊の10歳の誕生日だった。

すっかり手足の長くなった眼鏡ポンチの長男坊の顔を見て、10年前のことを思い出した。
私たちは当時岩見沢に住んでいたが、嫁は札幌の実家で出産に備えていた。既に予定日は5日ほど過ぎており、いつ生まれてもおかしくない状況になっていた。
その日はたまたま札幌で泊まり込みの研修会の2日目。朝の講義が始まって1時間ほど経過した頃、携帯電話に嫁からのメールが入った。「今から病院へ行きます。

出産にあたって夫の立ち会いを希望したのは嫁である。私は正直言って気が進まなかった。猛烈な痛みを耐えて出産という女性の一大イベントを目の当たりにして失神した男性は少なくないと聞く。それ以降嫁に頭が上がらなくなる夫も数多いらしい。

私は非常に消極的ながらも、一応状況だけは伝えておかねばならないと思い、研修会の事務局である本社の課長補佐にこっそりと伝えた。すると、
「研修はもういい。病院に行け。後で後悔することになるぞ。
と言う。いやいいですよ、と私は抵抗したが、一度言い出したら頑として引かない。私はこの人の性格をよく知っている。札幌→旭川→岩見沢と転勤するなかで、3度とも上司として私を支えてくれた大恩人であり、職場では私の最大の理解者といっても過言ではない人である。嫁のこともよく知っている。だからそのぶっきらぼうな言葉が最大限の気遣いであることもよくわかる。

私は荷物をまとめて病院へ駆けつけた。病室にはたまたま研修中の看護師がふたり密着しており、甲斐甲斐しく面倒を見てくれている。定期的に襲う陣痛に呻く嫁の姿を目の当たりにしても、私にできることは何もない。陣痛の間隔は少しずつ短くなっていくが、まだ出産のタイミングには達していない。時間は刻々と過ぎていく。

分娩のスタンバイに入ったのは、私が病院に駆けつけてからおよそ9時間後、午後7時少し前のことであった。脂汗を浮かべながら苦しみに耐える嫁の手を握ろうとすると、「手は握らないでください。上から添えるだけで。」と止められた。嫁にそれほどの握力があるはずもないのだが、確かにベッドの鉄柵を握りしめる様子を見ていると、私の手ごときは木端微塵になりそうな力強さがある。

午後7時24分、3,604グラムの長男坊は、初めて外の空気を吸い込んだ。心もち手を持ち上げるようにして泣く声は力強かった。北海道にただひとり、私と血のつながる人間の誕生である。涙が止まらない。

脱力する嫁に、よくがんばったね、と声をかける間もなく、私の腕の上にタオルが掛けられ、その上に生まれたばかりの赤ん坊が乗せられた。先生から見習い看護師に至るまで、口々に「お父さんそっくりですよ~」と声をあげる。支持率100%である。組んだ腕にすっぽりと入るほどのサイズしかない赤ん坊を見ながら、こいつが10歳、20歳と成長していく姿を想像してみたが、どうもうまく思い描けない。このままのサイズで何年も自分の懐の中にいてくれる、そんな気さえしていた。

それから10年もたつのかと思うと、非常に感慨深いものがある。場の空気を読むかのように、世間一般の赤ん坊と比べると手の掛からない方の部類だったと思われる長男坊は、常ににこにこと周囲に笑顔を振り撒きながら、大きな故障をすることもなく成長してきた。

成長につれてどんどん、顔だけでなく、やることなすことがすべてお父さんそっくりになってきた。人の話を聞かないのも、部屋を片付けられないのも、宿題をギリギリまでため込むのも、何かにつけて調子に乗るのも、すべてお父さんのコピーである。自分の青春時代を顧みるに、この性格を矯正していくのは至難の業である。自分の経験を確認しながら、良い方向へと向けていってやるしかない。

10年たってふと振り返ってみると、多分この先こいつと一緒に寝食を共にできる時間は、あと8年あまりである。途中で単身赴任することにでもなれば、もっと短いかもしれない。そう考えると、もう半分以上の時間が過ぎてしまっている。貴重な時間を無駄にしてはいなかったか。反省することばかりが多い。

なお、生まれたばかりの赤ん坊を最初にお父さんに抱かせた病院側の真意はよくわからないが、嫁は自分が初めてお腹を痛めて産んだ赤ん坊を最初に抱かせてもらえなかったことを未だに根に持っているらしく、時々思い出しては不快感を表明している。

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日常の旅人」カテゴリの記事

コメント

懐かしい 私も第一子(長女)の頃を思い出しました

「腰さすったげて!」と看護婦さんに言われて
おっかなびっくりさすっていると
「そんな弱いのじゃダメ もっと強く!」って叱られたり
男って何もできないんですよね(笑)

投稿: buzzっち | 2013/07/06 00:44

(^^)こんばんは
遅ればせながら、
長男さん、10歳になられたこと(^-^)ノ∠※PAN!。.:*:・'゚☆。.:*:・'゚★゚'・:*
誕生日~q(^-^q) q(^∀^)p (p^-^)p~♪おめでと~ございます
いかさまさんの長男さんに向けての想い、素敵です

投稿: tutatyan | 2013/07/06 01:41

おやまぁ、アメリカの独立記念日とは~
ちなみに、と~まんちの猫ちんと同じ誕生日なので、
長生きするに違いないですよ(20歳のばけ猫だす)
本当に、子供と共に過ごせるのは存外短いですよね~
(´・ω・`)
でもね、うちの長男君、理系だからあと6年はいるかも…
って考えると、3男くんが出てくまで長い…(;^ω^)
えっと、素直に祝ってないですね~(;・∀・)
オメデトウ(^▽^)ゴザイマース

投稿: と~まの夢 | 2013/07/06 15:11

1号くん、10歳おめでとう!

私も数ヵ月後には…と思うと涙が出てきた。
そして、妊娠6ヶ月にしてイライラが激しくなってきた
ような気がして、自己嫌悪に陥っています~

男の人が出産に立ち会って、血にやられたり、
云々受け付けなくなるような話も聞くので
無理矢理しまに立会いを勧めるつもりもないけれど、
しまが立会いを希望してくれたのは嬉しかった。
私も札幌で産むのでしまが間に合うか心配なところ。

先生も職場で色々あるのだろうけど、
良い上司に出会えて幸せね♪

親のコピー、怖い。。。
生まれた赤ちゃん、
私は自分よりも先にしまに抱いて欲しいなぁ。

投稿: むっち | 2013/07/06 20:43

いかさまさん、息子さん、おめでとうございまーす!
立会いだったのですね☆
その時の感動が伝わってきました^^

子供の成長に照らし合わせると、10年間ってあっという間ですよね。
私のところも18年間、あっという間でした。
ということはきっと、今は高齢の私の親も、
このウン十ウン年間があっという間で、
赤ん坊の頃から何から何までが昨日のことのように思い出されるんだろうな~、
なんて思うと、親との交流も今まで以上に大切にしたくなってきた今日この頃です^^

投稿: kokage_zzz | 2013/07/07 00:41

>buzzっちさん
いつもありがとうございます。

そうでしたね。私も撫でるようにさすっていて、「それじゃダメ!」と怒られました。私たちには到底分らない痛みに耐えて出産という門をくぐる嫁、buzzっちさんのように、大切に接していかないといけませんね。

まあ、それが難しいんでいつも悩んでるんですけど(笑)

投稿: いかさま | 2013/07/07 01:46

>tutatyanさん
いつもありがとうございます。
そうですね、文章で書くとカッコ良くなってしまいますが、実のところは全く至らない父親でして、なかなか距離感もうまく測れなかったりすることもあるのです。
でもこういう思いは投げかけ続けていきたいですね。彼が周りの人たちに対して誇れる父親でありたい、という思いだけは持ち続けています。

投稿: いかさま | 2013/07/07 01:48

>と~まの夢さん
いつもありがとうございます。

実は彼の祖父、嫁の父がまったく同じ誕生日でして、7月4日に70歳になったのです。ジジ孝行な孫でしょう?(笑)

仮に自分の人生70年、そのうち嫁さんと40年と考えると、子供との時間はほんとうにわずかな時間なのかもしれません。長く手元にいてほしいと思いつつも、早く巣立って成長してほしい、という気持ちもあります。難しいですね。
とにかく、一緒にいられる時間、大切に使うよう心がけたいと思います。これまでなかなか実行できていませんから…。

投稿: いかさま | 2013/07/07 01:52

>むっちさん
ありがとうございます。
6か月ということは、安定期に入りつつあるということですね。
わが家は、ちょうど長男坊が腹の中にいる時、確か8カ月目に入る頃だと思いますが、九州旅行に行きました。博多から列車5本を乗り継いで長崎・別府を巡りました。これが嫁のストレス解消になったかどうかは微妙ですが(笑)、この時期、体を動かせる状態であればいろいろとガス抜きに動いてみるといいかもしれませんね。
いずれにしても旦那さまと二人の時間はあとわずか。本人も望んでいることですし、ぜひ三人目の家族の誕生の瞬間をともにして、いっそう仲良くしていってくださいね。

投稿: いかさま | 2013/07/07 01:56

>kokage_zzzさん
コメント、お祝いありがとうございます。
子供を持って親の気持ちがわかるようになるといいますが、まさにそのとおりですね。自分たちが子どもだったころ、両親がどんな思いで私たちに接し、どれほどの愛情を注いでくれたかということを、しきりと考えるようになりました。自分の歩んできた道を考えると、これからの8年はとても難しい時期になっていくのだろうと思います。
両親は遠くにいて、なかなか会うこともままならないのですが、感謝の気持ちを常に持ち続けつつ、何か出来ることはないだろうか、探していきたいと思います。

投稿: いかさま | 2013/07/07 02:01

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