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2013/08/15

本棚:「米内光政」「山本五十六」「井上成美」

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阿川弘之氏と言えば、私たちのような鉄道文学好きは、内田百閒の衣鉢を継ぐ「南蛮阿房列車」の、ピリリと辛いユーモアの効いた洒脱な文章を思い出す。エッセイスト・作家で、「ビートたけしのTVタックル」でもお馴染みの阿川佐和子さんはご令嬢で、彼女のエッセイの中に時折登場する頑固なお父さん、という印象をお持ちの方も多いかもしれない。

広島県出身で海軍軍人。出征中に家族が被爆した経験を持つ阿川氏は、戦後、志賀直哉に師事し、「春の城」で読売文学賞を受賞、以来太平洋戦争を題材とした小説を数多く残してきた。
山本五十六」(1965年)、「米内光政」(1978年)、「井上成美」(1986年)は、太平洋戦争をめぐり「海軍左派」と呼ばれた3軍人の生涯を記した、伝記小説3部作である。私の興味の対象である「鉄道旅行」と「昭和史」が、阿川弘之という作家を通じて結びついたご縁の本である。

ポツダム宣言を受けて、無条件降伏を受け入れるか否かをめぐり、8月10日に最高戦争指導会議(御前会議)が開かれている。この中で、徹底抗戦を唱えた阿南陸相、梅津参謀総長、豊田軍令部総長に対し、東郷外相、平沼枢密院議長、米内海相が無条件降伏受入を主張して討議は平行線となった。最終的には鈴木首相が昭和天皇の裁決を仰ぎ、いわゆる「聖断」によって降伏が決定した。この話は、昨年の今時期ご紹介した「聖断~昭和天皇と鈴木貫太郎」の中に詳しい。

この時を含め、2度の海軍大臣と1度の総理大臣を務めた米内光政。1度目の米内海相のもとで次官を務めたのち連合艦隊司令長官へ転出、皮肉にも真珠湾攻撃の総司令塔となり、最後はブーゲンビル島上空に散った山本五十六。1度目の米内海相のもとで軍務局長、2度目の海相を次官として支えながら、終戦を目前にして不可解な人事で次官の座を追われた井上成美。「海軍左派トリオ」と呼ばれた彼らは、一貫して米英との交戦に反対し続けた少数派であった。
8月10日の御前会議において、軍人の中で戦争終結を主張したのは米内ひとりである。この意味合いは大きい。米内がいなければ、戦争は継続し、本土決戦が行われていた可能性もある。

もっとも、彼らが終戦工作にあたって積極的な役割を果たしたことに対しては、懐疑的な意見も多い。極端な意見では、「米内・山本・井上は米英に日本を売った『売国奴』」という論調のものもある。
けれども、この本を読むと、彼ら3人が、日本が太平洋戦争へと突き進む中で何を考え、どう動こうとしていたのかが、さまざまな人物への取材を通じ、阿川氏の淡々とした、重い中にも軽快な文章となって浮き彫りになってくる。

阿川氏自身が海軍軍人であったためか、全体を通じて、海軍に対して好意的に描かれている。陸軍サイドの視点から見れば気に入らない部分も多かろうが、歴史に対する評価や見方はさまざまであるから、その1類型と考えればいい。別な文献を通じてさまざまな見方、考え方に接し、知識や理解を補強すればいいだけのことである。むしろこの本は、歴史とは直接に関係のない、女性たちをめぐるやり取りなども出てきて、小説としても楽しむことができる。

和平派、あるいは親米英派と呼ばれる人たちが中核から次々と外されていった陸軍に対し、海軍においては、内部的に決して主流派だったと思えない米内・井上が、戦前から終戦へと向かう十数年の間、随所で重要な地位にあり、終戦を迎える局面で海軍、もしくは国そのもののキャスティングボードを握るポジションにいたということは史実として理解しておくべきだろうと思う。

終戦から68年の日に。


【追記】
米内光政は非常に読書家だった人で、特にその読書術については、私の大いに同感するところである。過去のブログで一度取り上げているので、よろしければ是非目を通してみていただきたい。

いかさま流読書法


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コメント

知識豊富なり

投稿: 姉さん | 2013/08/16 05:57

ほんと、長く生きている割に知らない作家さんが多いなぁ
と、本のブログを書いてる方のを読むたびに思いますぅ
阿川親子は存じ上げておりましたが、
作品は親子とも読んだことないいですよ~
何かのご縁ですね、チェレンジすっかな?

投稿: と~まの夢 | 2013/08/16 09:27

>姉さんさん
いつもありがとうございます。
ストレートに褒められると少々照れるのですが(笑)、ただ偏ってるだけなんですよね。特に理系の話になると、借りてきた猫のように大人しくなる傾向があります。

投稿: いかさま | 2013/08/17 09:19

>と~まの夢さん
いつもありがとうございます。

作家さんが世の中に何人くらいいらっしゃるのかわかりませんが、多分、人生の中で一度もお会いしない作家さんの方が圧倒的に多いはずですよね。

阿川親子は最近、お嬢さんの方がメジャーですね。ベストセラーになった「聞く力」とか、檀ふみさんとの交換エッセイ「ああ言えばこう食う」なんかは面白かったですよ。
ぜひお試しください(笑)

投稿: いかさま | 2013/08/17 09:22

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