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2015/08/12

【本棚】日航ジャンボ機墜落事故を知るための本

 1985年8月12日18時56分。乗員・乗客524人を乗せた日本航空123便、ボーイング747-SRは、群馬県多野郡上野村、長野県との県境に程近い高天原山の尾根、通称「御巣鷹の尾根」に墜落した。生存者はわずかに4名。単独航空機による事故としては世界最悪の死者数となった。

 この事故については、この1年ほどの間に数多くのテレビ特番が放映され、また今日もニュース番組でさまざまな報道がなされた。
 私はこの事故当時中学1年生。まだ飛行機に乗ったことのない、ガチガチの鉄道少年であった。その私が北海道に住むようになり、必要に迫られて航空機を頻繁に利用するようになって久しいが、未だに飛行機に対する恐怖感は完全には抜けない。その一方で、事故原因を自分自身で理解することにより、逆にその恐怖感を鎮める一助にしたい、という気持ちもある。

 そんなこともあって、日航機事故に関する本は、買ったり、借りたりしてかなりたくさん読んだ。当然のことながら飛行機に対する恐怖感がそれほど簡単に抜けるわけはない。ただ、読むたびにいろいろなことを考え、時に胸を痛め、涙を流す。それらの中で特に印象に残っているものをいくつかご紹介したい。

・「日航ジャンボ機墜落~朝日新聞の24時」(朝日新聞社会部編)
Img_1884_2  事故から24時間の間の出来事を軸に、新聞社がどのような取材をおこない、報道をしたのかをまとめた記録である。日航機事故を扱った本の中で、私が最初に触れた一冊である。記録の性質上、事故原因などよりも、そのとき起こっていた事実が中心に綴られているため、生々しい迫力がある。
 この本は「エピローグ」として、509人の乗客名簿、生存者へのインタビュー、不幸にも亡くなられた方が残された遺書、そしてボイスレコーダーの記録が掲載されている。圧力隔壁が吹っ飛んだ18時24分からの32分間、コックピットでもキャビンでも、死を覚悟した人たちの悲痛な戦いが続いていた。特に遺書とボイスレコーダーの記録の部分を読むとき、未だに私は絶望に包まれた中で必死にもがいた乗員・乗客のことを思い、涙が止まらなくなる。

・「墜落の夏」(吉岡忍)
Img_1885  事故からほぼ1年後に発行されたルポルタージュ。一番の読みどころは、生存者のひとりである落合由美さんへの三度にわたるインタビューである。機内でその時起こっていた出来事が生々しく語られ、死と向き合った乗客たちの姿と、事故原因を究明するカギを伝えている。また、遺族、検視に当たった医師、遺族の世話係を務めた日航社員など、幅広い当事者への取材により、淡々とした筆致で事故現場や遺体安置所の凄惨な状況と書く。事故調査の進展を踏まえて事故原因にも迫っていくなど、非常に多面的な内容である。

・「墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便」(飯塚訓)
・「墜落現場 遺された人たち」(飯塚訓)

Img_0960  著者は事故当時、群馬県警高崎署の刑事官で、遺体の身元確認の最前線にいた人である。「墜落遺体」は、遺体安置所での検視作業を軸に、凄惨をきわめた遺体の状況や、遺体と対面した遺族の表情を描いている。「墜落現場」はその続編にあたると思われるが、遺族や検視に関わった当事者たちのその後を取材した作品である。
 事故そのものというより、事故がもたらした「死」に対する人々の思いが伝わってくる。読み進むうちに時に息苦しさを感じるような作品だと思う。

・「クライマーズ・ハイ」(横山秀夫)
・「沈まぬ太陽(三)御巣鷹山篇」(山崎豊子)

Img_1883  ともに映画にもなった、日航機事故を題材にした小説。どちらもフィクションの体裁をとってはいるが、事実を下敷きとして物語りは進んでいく。上のルポルタージュよりは易しく、日航機事故の何たるかを知ることができる。
 「クライマーズ・ハイ」は新聞記者目線。事故当時、上毛新聞の記者だった作者が、主人公に自分自身を投影しながら書いたのだろう、と想像しながら読んだ。
 「沈まぬ太陽」は航空会社社員の視点。この作品は全5巻の第3巻に当たるが、この巻を単独で読んでも全く問題はないと思う。

 父や母を亡くした子供たちは、おそらくその当時の父母の年齢を超える齢になられているはずである。子供を亡くした方の中には、すでに高齢で亡くなられた方も多いと聞く。すぐ近くにいたはずの家族を突然に失ってからの30年、遺族の方々がどのようにしてその喪失と向き合い、それを乗り越えてきたのか。
 事件や事故は忘れた頃に起きる。先日は調布で小型機が民家に墜落するという痛ましい事故も起こった。ハード・ソフト面で安全対策を張り巡らすことはもちろん大切なことだが、事故の記憶を風化させないことも、再び同じ悲劇を繰り返さないためには大切なことではないか、と思う。


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コメント

図らずも昨夜、テレ朝かな?の特番を観ました
当時、かぁちゃんは大学3年生だったかな?
日航の安全神話がくずれたと大騒ぎの熱がさめやらぬ1週間後、中国旅行へと日航機で行きました(^^ゞ
正直怖かったです
どんな乗り物でも事故はつきものですが、飛行機は落ちたらほぼ全滅だと覚悟した記憶があります
この本の中ではクライマーズハイと沈まぬ太陽の映画を観ました。
事故が大きすぎて上手く言えませんが、原発もそうですが
人のすることです
100パーセントはないと思うのです
どんなお仕事をしていても、大丈夫か?と何度も問う、反省する、振り返る勇気を持ちたいものですね

投稿: と~まの夢 | 2015/08/13 14:37

30年前は、親戚の家(夫方の本家・阿蘇神社の近くです)にお盆前の挨拶に行っていてこの悲惨な事故を放映
するテレビにくぎ付けでした
クライマーズ・ハイは原作も読み映画もみましたが
この作品で、堺雅人さん大好きになりました
半沢よりだいぶ前ですよね(笑)

投稿: ターコイズ | 2015/08/13 16:02

いかさまおはようございます。
8月は終戦、原爆投下、日航機事故と忘れられない、忘れてはけない記念日が続きますね。
早いもので日航機事故から30年、、5百数十人の乗客を乗せたまま、行方不明ニュースを聞いたときは信じられないような衝撃でした。
このような重大な出来事は国民一人ひとりが胸に刻み、繰り返してはならないこととして考えていくべきことでしょうね。


投稿: mitakeya | 2015/08/14 06:13

 と~まの夢さん、いつもありがとうございます。
 お返事が遅れまして申し訳ありません。

 確か新幹線の焼身自殺事件の話の時にも書いたように記憶していますが、乗り物に「安全神話」などというものは存在しません。その乗り物にかかわる多くの、そしてすべての人々のたゆまざる努力が安全を担保しているのだと思います。
 ひところ日航で、飛行機の部品が脱落したりする事故が続発したことがありますが、のど元過ぎれば何とやらと言います。おっしゃるとおり、私たちの仕事にも相通ずるものがありますが、常に確認と自問を欠かさないことは大切ですね。

投稿: いかさま | 2015/08/22 01:20

 ターコイズさん、コメントありがとうございます。
 お返事が遅れまして申し訳ありません。

 私は「クライマーズ・ハイ」の映画は見たことがありませんでした。堺雅人が出演していたんですね。2008年と言いますから半沢直樹よりも5年ほど前ですね。佐山役をどんなテンションで演じていたのか、気になりました。今度借りてきて観てみようと思います。

投稿: いかさま | 2015/08/22 01:47

 mitakeyaさん、コメントありがとうございます。
 お返事が遅れまして申し訳ありません。

 8月6日の広島原爆の日、9日の長崎原爆の日、12日の日航ジャンボ機墜落事故の日、そして15日の玉音放送の日と、さまざまなことを考えさせられる日が間断なく続きますね。事故も戦争も無差別に多くの人々の人命を奪います。日航機事故は終戦40年の節目の年に起こりました。これからも節目の年に同じように思い出されて、安全への誓いを新たにする日になっていくのでしょうね。

投稿: いかさま | 2015/08/22 01:56

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