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2015/09/02

「JR北海道再生のための提言書」をめぐる動き【5】

 このところの多忙ですっかり間隔が空いてしまいましたが、すみません、性懲りもなく堅い記事です。


 JR北海道の今後の再生を考える際に、しばしば引き合いに出されるのが、JR九州との差である。


 国鉄が分割民営化された際、新幹線というドル箱を有する東日本・東海・西日本の3社に対し、北海道・四国・九州のいわゆる「三島会社」は、当初からその安定的な経営に対して懸念が持たれていた。
 このため、国は三島会社に対し、「経営安定基金」の積み立てをおこない、その運用益で赤字を補填することとした。基金の金額はJR北海道6,822億円、JR四国2,082億円、JR九州3,877億円である。この基金の財源は旧国鉄の長期債務に上乗せされ、実質的に国民負担となっている。


 三島会社は初年度である1987年度、いずれも鉄道事業損益は赤字となったが、経常損益は、JR四国で10億円、JR九州で15億円の黒字となった。経常ベースで赤字となったJR北海道も、当期利益は黒字を確保している。
 この利益の主因となるのが経営安定基金の運用益であった。1987年度の運用益は、北海道498億円、四国152億円、九州283億円。バブル景気の幕開けとなったこの時期、利回りは7.3%という高率である。


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 この利益を元に、三島会社は経営基盤の強化に乗り出す。各社共通の課題は、延伸が続く高速道路への対抗としての「都市間輸送の強化」であった。
 JR各社のトップを切って、JR九州は1988年、博多-熊本間に「ハイパーサルーン」783系電車を投入。JR四国は1989年、岡山・高松-高知間に振り子機能を備えた2000系ディーゼルカーを投入した。
 JR北海道も、1990年の札幌-旭川間(785系電車)に続き、JR四国2000系の振り子機構をもとに設計されたキハ281系ディーゼルカーを1994年に導入した。函館-札幌間318.7kmを最速2時間59分(のち3時間)で結んだ「スーパー北斗」の表定(平均)速度は106.8km(のち106.2km)。2013年に一連の事故の影響でスピードダウンが実施されるまで、日本の在来線最速列車だった。


 ここまでの動きを見る限り、JR北海道とJR九州の間に明確に大きな違いがあるようには見えない。しかし、分割民営化から28年を経た現在、JR九州が株式上場による完全民営化を決めたのに対して、JR北海道は3か年で計1,200億円、安全対策に必要な資金について国の追加補助を受ける立場にあるなど、明暗はくっきり分かれた。


 JR北海道とJR九州は、路線延長や鉄道事業に関する費用など、会社の規模が比較的似通っている。四国も含め、三社とも分割民営化以降、鉄道営業収支が黒字になったことは一度もないところは共通しているが、赤字幅には大きな開きがある。2012年度における、鉄道収入に対する費用は、北海道1.43倍に対し、九州は1.07倍。赤字額にして200億円以上の開きがある。
 これには、JR九州が収益の柱となる新幹線を得たことや、鉄道そのものの魅力を伝える「商品」としての列車を数多く世に送り出したことも貢献しているが、それ以上に両社の背景となる経営環境の差も大きいと考えられる。


 そもそも九州は、人口150万人の福岡を筆頭に北九州、熊本と3つの政令指定都市と4つの中核市を持ち、7県合計で人口は1,320万人。これに対し、北海道は中心となる札幌こそ190万人と福岡を上回るが、それ以外は中核市2つだけで、全道計は550万人。九州の半分以下である。
 この差が輸送密度の差としても明確に現れており、2012年度の会社合計ではJR北海道4,764人に対し、JR九州10,756人と大きな差がついている。輸送密度500人以下の路線をJR北海道が3線も抱えているのに対し、JR九州にはひとつもない。


 人口の差がもうひとつ影響したと考えられるのが、関連事業である。これは多分に各社の方針や経営センスによる部分も大きいし、実際JR九州はJR各社の中でも多角化経営に関しては積極的かつ順調に推移している。けれども、営業地域を限定される鉄道会社の関連事業の在り方を考えた時、人口というバックボーンの差は大きい。関連事業利益はJR九州の133億円に対し、JR北海道はわずか26億円である。


 こうした状況下で、JR九州は経営安定基金の運用益がなくても経常収支がほぼ均衡するレベルまで到達したのに対し、JR北海道は現状においてもなお、基金運用益なくしては収支が合わない状況である。2014年度のJR北海道における基金運用益は371億円で、経常収益全体の3割近くに達する。しかも、バブル後長らく続く低金利の状況下、運用利率は5.4%にもなる。これは、国(正確には鉄道・運輸機構)が、経営安定基金を高利で借りるという、いわゆる機能維持策をとっていることによる。ただし、この機能維持策は、将来に向けて縮小していくことになっており、JR北海道に対する自立的な経営の要求は今後一層高まる。


 企業体力を消耗させ、より一層の合理化が求められたJR北海道が、線路や車両のメンテナンスなどを怠り、結果として鉄道の安全性と信頼性を著しく損なわせることになったことは厳しく糾弾されなければならない。しかし、経営の安定化に向けた増収を目指して、JR北海道はJR北海道なりの努力をしてきたのもまた事実である。


 北海道という雄大な自然を背景とした豊富な観光資源を活かした観光列車の運行などは、JR北海道がJR九州に学んでいくべき姿勢であることは否定しない。けれども、今のJR北海道に最も必要なことは、これまでの28年間で蓄積された経営資源を最大限活用しつつ、将来に向けて新しい投資をしていけるだけの体力を回復するという作業なのではないか。「選択と集中」の本意はそこにあるといっていい。致命傷を負った患者をいきなりリハビリに引っ張り出すようなことになっては、会社そのものの存続に暗雲が立ち込める。


Dscn1205 JR北海道は、輸送の安全確立に向け、キハ261系特急型ディーゼルカーの増備による老朽車の更新を進めることにしている。
 キハ261系は、曲線通過速度の向上のために車体傾斜装置を搭載している。振子装置よりも簡易な仕組みだが、最高速度130km/hの設計とともに、道北・道東方面への高速化に貢献した。
 けれども現在、一連の安全対策の一環として、キハ261系の最高速度は120km/hに抑えられ、車体傾斜装置の使用は中止されている。正式な報道はないが、今般増備されたキハ261系は、当初から車体傾斜装置を搭載していないという噂もある。そもそもキハ261系自体、基本設計は15年も前のものである。


 JR北海道の現況を鑑みた時、経営の合理化は喫緊の課題であり、それ自体を否定することはできない。しかし、JR北海道がこれまで最優先の課題として取り組み、積み重ねてきたスピードアップは、ここにきて完全に棚上げされた。
 JR北海道における一連の事故の原因は、技術開発力の未熟さではなく、技術の結晶を維持するためのメンテナンス体制の不備だったと思う。その改善、建て直しは、経営合理化と並行して、急ぎ進められなければならない。さもなければJR北海道が四半世紀以上積み重ねてきた技術の蓄積が完全否定される結果になりかねない。


 都市間輸送における競争力に高速化は不可欠である。来春開業する北海道新幹線の効果を最大のものにするためにも、JR北海道には高速化への挑戦を諦めないでほしい。JR九州並みの経営状況への到達は困難かもしれないが、JR北海道が復活を遂げ、JR九州と同様、鉄道の強みと魅力を存分にPRできる存在になるための最大の鍵になると私は信じている。


 このテーマ、終了。

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コメント

観光資源のたくさんある北海道
どうにか再起してほしいものです。
道内一周列車の旅なんて素敵だと思うのですが・・・

投稿: 姉さん | 2015/09/03 20:58

姉さんさん、いつもありがとうございます。

人口が圧倒的に希薄なのは北海道にとってある意味致命的ではありますが、一方で富良野・美瑛に代表されるように、手法いかんでは人口をはるかに上回る観光客の入込を期待できるところも少なくありません。
まずはじっくりと体力を回復させ、そのうえで北海道と鉄道の魅力を伝える斬新な取り組みをしていってほしいと、私も思っています。

投稿: いかさま | 2015/09/10 00:49

初めまして。
JR東海管内です。
JR北海道大好きですので、興味深く読ませていただきました。
昨今のJR北海道の問題ですが、はっきり言ってJR化による明と暗の暗部が顕在化したのだと思います。
そもそも、北海道の鉄道が自力で本州の鉄道と同等にできるわけがありません。
冬季の雪だけとっても、他JRに比べてかなりハンデでしょう。
それに人口密度を考えたら。。。
一つの会社、一つの路線、で収支を考えたら株式会社としては廃止などの措置をとらなくてはならないでしょう。
しかし、鉄道は国の財産でもあります。
都市部があって、農村部があって、それをつなぐ鉄道があって、人や食料などの物資が流れて国として成り立っています。
儲かる儲からないは都市近郊の私鉄の話であって、JR線は国として必要な国民の財産であり、路線全体として見るべきだと思います。
と考えると、もはや国鉄に戻したほうが良いような気がします。
それが無理であるなら、北海道をJR東海の管内として、新幹線の利潤を北海道にまわしてもいいいのではないか?と思ってしまうJR東海管内の住人です。

投稿: クロ381-11 | 2016/04/14 10:20

クロ381-11さん、はじめまして。コメントありがとうございます。

 おっしゃるとおりJR北海道はJR東海と比べても大きなハンデを負っていますが、これはそもそも分割民営化の段階から想定されたことでありました。そのための経営安定基金だったわけですが、現実には当初の想定を上回って少子高齢化や都市部への人口集中が進んでいます。
 都市部や地方の一私鉄と違い、JRの幹線輸送が果たす役割は大きいことは疑いの余地はないと思いますが、それを国が果たす役割ではないと放棄したのが国鉄分割民営化です。JR東海の利益を北海道に回すという話は森元首相もどこかで言及されていましたが、民間企業にしてしまった以上それはちょっと違う気がしています。
 JR北海道の安全に対する怠慢が今日の状況を招いたことについては厳しく糾弾されるべきでしょうが、今後国、北海道、地方自治体が鉄道のあり方、活かし方をどのように考えていくかが重要なカギになると思います。

投稿: いかさま | 2016/04/15 01:04

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