2017年秋 北陸・東海乗り歩き【7】 自然と人工のコラボレーション~黒部ダム
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黒部ダムは、関西電力がひっ迫する関西地方の電力供給を背景として1963年に完成させた水力発電専用のダムである。3,000m級の山々が連なる北アルプスに囲まれた黒部峡谷の中にあり、7年間の工期と513億円の建設費を要し、171名の殉職者を出した難工事となった。
この辺りの経緯は映画「黒部の太陽」や、NHKテレビ「プロジェクトX」など、メディアでもたびたび伝えられえている。最近では「ブラタモリ」でも取り上げられており、ちょうど翌週にこの旅を控えていた私にはちょうど良い予習になった。
トロリーバスの黒部ダム駅から、湧水を飲みつつ220段の階段を上り、まずは高所から黒部ダムを一望できる展望台へと出る。残念なことに雨がしとしとと降っており、霧に煙って視界も良くないが、柔らかなWの字を描くダム堰堤と、その上流にあたる大量の水を湛えた黒部湖、そして下流側へ豪快に放水される様子が目に飛び込んでくる。
ゆるやかに紅葉が進んでいる険しい峡谷がつくる自然の美の中にあって、黒部ダムの存在は異質の人工物だが、それゆえに多少の悪天候でも、この雄大さは存分に伝わってくる。
売店もある休憩所の横の野外階段を下る。階段の中腹あたりに放水観覧ステージが設けられており、ダム堰堤とほぼ同じ高さから放水の様子を見ることができる。
この放水は観光放水と呼ばれ、ダム機能とは直接的に関係はないのだが、下流の水質を維持し生態系を保護するためにおこなわれているという。
野外階段をさらに降りると、新展望広場に着く。ここからは放水口にかなり近い高さから観光放水の様子を眺めることができる。ダム本体に這わされた点検通路も間近に見える。ダムの堤高は186m、ビル60階以上に相当するというから、高所恐怖症ではここの作業員は務まらない。
毎秒10t以上の水が飛び出しては落下していく放水は、間近で見ると実に豪快である。この勢いが水力発電の出力を支えているのだろう、と、黒部ダム自体で発電をおこなっていると勝手に勘違いしていた私は感心したのであるが、実際の発電は、地中送水管を介して10kmほど離れた黒部川第四発電所(黒四)でおこなわれている。新展望広場に設けられた特設会場の展示で、私はうかつにも初めてその事実を知った。
階段を上ってレストハウスに行き、小休止した後、先へと歩みを進めるため、ダム堰堤を歩く。レストハウスから少し歩くとほぼ直角に左へ曲がり、あとは緩やかな右カーブが続く。
長さ492mのダム堰堤は、黒部湖にそそぐ大量の水の圧力に耐えるため「アーチ式」と呼ばれるダムの形になっているが、両岸の基礎となる岩盤の弱さをカバーするため、この部分だけはダムの自重で支える形になっている。これが黒部ダムの堰堤が「W形」を描いている理由である。
振り返ってレストハウス方向を眺めると、山の中腹に最初に立った展望台が見える。新展望台は堰堤より下にあって見えない。ずいぶんと高低差があるところを行き来したわけで、道理で足がパンパンになるはずである。
堰堤の中央付近まで来る。上流側の黒部湖は貯水量2億t。しかもこの水は1年で4~5回入れ替わるというから、黒部川の水量の豊富さがわかる。反対側に目をやると、はるか下方に一転して細くなった黒部川がやや早く下流へと流れている。川の勾配がにわかに急になり、かつくびれたこの地点の地形がダム建設に最適だったのだという。堰堤に立ってあらためて眺めると、この山奥にこの巨大な施設をたった7年で完成させたことの凄さと壮大さを感じずにはいられない。
黒部ダムは、電力のひっ迫という必然性に迫られて、ここしかないという地理的必然性をもって建設された。関電トンネルを含む立山黒部アルペンルートの東半分はその副産物として生まれ、その結果として私たちは壮大な自然と人工のコラボレーション美を目にする機会を得た。
黒部ダム、チャンスがあればぜひ再訪したい場所のひとつになった。できれば今度は晴天の日に、というのが本音ではある。
続く。
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コメント
では…お言葉に甘えさせていただきコメント遠慮なくさせていただきます(´▽`)/~♪
なんかすっかり旅の指針とさせていただいてますが…
地元ネタまでもすっかりいかさまさんの旅に釘付けです゜.+:。(*´v`*)゜.+:。
何度も行って旅っていうより実家にお客さんや友達、県外の親戚が遊びに来ると連れて行くような??知り尽くしている場所とばかり思っていましたが…
こうして改めて拝見させていただくと
知らない事だらけで…知った気になっていた自分が恥ずかしいですね…(゚ー゚;
私、高所恐怖症なので…感動とかなくて記憶も薄らいでいましたが
いかさまさんの記事で懐かしく…それに今になって勉強になりましたm(_ _)m今度、いかさまさんに再訪していただける時は晴天の日になることを願っています!!
投稿: ゆきぱんだ | 2017/11/14 11:19
ゆきぱんださん、いつもありがとうございます。
地元にいると意外にわからないことって多いものではないかと思います。事実、私は岐阜県に18年も生息していながら、高山や下呂、白川郷といった県内有数の観光地を初めて訪れたのは北海道に住むようになってから、というていたらくです。
いずれゆきぱんださんが私の知らない岐阜県や北海道を発掘される日が来るのではないでしょうかね。バラエティーに富んだ楽しいゆきぱんださんのブログを見ているとそんな気がしています(笑)。
投稿: いかさま | 2017/11/19 23:20