« JR北海道「維持困難線区」は何処へ【5】石北本線(その1) | トップページ | JR北海道「維持困難線区」は何処へ【7】石北本線(その3) »

2018/05/16

JR北海道「維持困難線区」は何処へ【6】石北本線(その2)

 石北本線を巡るもうひとつの大きな問題は貨物列車の存在である。


 北海道の鉄道は、石炭をはじめとする貨物輸送と、地域の開発を目的として、人口希薄な地域にまで張り巡らされていった歴史を持つ。石炭が斜陽化する中、貨物輸送の柱となっていったのは農産物輸送である。今も農協の倉庫が駅の近くに並んでいるのはその名残である。
 モータリゼーションの進展により、農産物輸送における鉄道のウェイトは低くなった。国鉄分割民営化当時1,500kmを超えていたJR貨物の道内営業路線は、現在1,267.9kmと減っているが、それでも大量輸送が可能な交通機関としての鉄道貨物の役割はまだ大きい。その典型的な例が石北本線を走る通称「タマネギ列車」である。


 国内の玉葱生産量は2015年産でおよそ126万トンだが、その3分の2近くが北海道産。なかでも北見市を中心とする「JAきたみらい」だけでそのおよそ4割、30万トンあまりを全国に向けて出荷している。ピーク時の出荷量は1日1,000トンをはるかに超える
 輸送手段は6割がJRコンテナ、残り4割がトラック(多くは20tトレーラー)+フェリーである。トラック輸送は機動力と速達性においてJRを凌いでいるが、貯蔵性の高い玉葱においては、5t単位での納入が可能なJRコンテナの引き合いは強い。8月から4月にかけて、北見-札幌貨物ターミナルに「タマネギ列車」が設定されるのはこのためである。


 その一方で、JR貨物は2011年、この列車の廃止を打ち出した。理由は機関車の老朽化採算性の問題である。
 機関車の老朽問題は、当初線路規格の低い石北本線には新型ハイパワー機関車(DF200形)は走行できないとされていた故発生した問題であったが、試験運転の結果問題ないことが分かり、2014年以降正式に導入されて解消している。
 だが、ハイパワーのDF200形が投入されたにもかかわらず、タマネギ列車は遠軽でのスイッチバックが必要になる石北本線の特殊性から、「プッシュプル」と呼ばれる機関車2両で列車を挟んで運転する特殊な形態になっており、人手も費用も余計にかかる。季節波動性の高い農産物輸送ゆえ、機関車や乗務員の手配も困難である。


 また、強力な機関車が導入されたとはいえ、石北本線内の列車行き違い設備の状況から、最大編成長は11両に制限されている。5tコンテナ55個、275t分である。
 北見からの列車はこれらのコンテナに玉葱をはじめ地域の農産物を満載にして走る。ところが、札幌からの帰路に運ぶ荷物、いわゆる「帰り荷」は極端に少ない。以前1日3往復が設定されていたタマネギ列車が現在1往復しか運転されないのはこのあたりにも理由がある。列車に乗り切らないコンテナは北見からトレーラーで代行輸送されて、北旭川貨物駅で別の列車に継送される形になっている。


 こうした状況から、産地ではJR貨物が求める運賃の値上げを呑み、さらにはコンテナ68基を自ら調達してJR貨物に提供するなどの手を打ってきた。業界の協力を得て、農産物輸送用の段ボールを札幌地区の工場からJRコンテナで運ぶなど、帰り荷確保の涙ぐましい努力もしている。


 北見地区の玉葱生産量は増加傾向にあり、ただでさえ輸送力が逼迫しているが、最近ではそこにトラックドライバーの不足と物流コストの上昇が追い打ちをかけている。仮に貨物列車が廃止となれば、20tトレーラーに切り替えても14台〜15台の車両とドライバーを用意せねばならない。石北本線沿線では高規格道路の整備も進んではいるが、だからといって簡単に列車廃止、トラック輸送化ということにはならない事情がここにある。


 そしてもうひとつ、今回のJR北海道による「維持困難線区」の問題でにわかに注目を浴びたのが、JR北海道に対するJR貨物の線路使用料の問題である。


 JR貨物は一部の専用線を除いて自前の線路を保有しておらず、JR旅客各社の線路を拝借して列車を運転し、旅客各社に線路使用料を支払っている。
 国鉄分割民営化に際し、採算性が不安視されていたJR北海道・JR四国・JR九州の3社に「経営安定基金」を積み立ててその運用益を赤字補填の財源としたが、同様に赤字が予想されたJR貨物に対しては、これに代えて線路使用料の大幅な減免をルール化した。いわゆる「アボイダブルコスト・ルール」である。


 これは、「貨物列車が走らなかった場合に発生する費用」はすべて旅客会社の負担とし、JR貨物は貨物列車の走行により上乗せとなった費用分だけを線路使用料とするルールである。JR貨物が2016年度に民営化後初めて鉄道事業収支を黒字化したのは、JR貨物自身の自助努力による部分ももちろんあるが、アボイダブルコスト・ルールによる線路使用料の低減の力も見逃せない。


 石北本線のように旅客列車の本数が少ない区間では、重量の大きな貨物列車の走行による線路損傷のウェイトも大きい。こうした事情も踏まえてJR北海道としては線路の維持管理経費も含めて線路使用料を設定したいところだろうが、現状のルールでは不可能である。
 同様の事情を抱えている路線は他にもある。以前に取り上げた根室本線・滝川-富良野間も、北見に次ぐ玉葱の一大産地である富良野地区の農産物輸送に貨物列車を運行しているし、旭川・岩見沢方面からの貨物列車は札幌を避けるために室蘭本線・沼ノ端-岩見沢間を経由する。


 もっとも、アボイダブルコスト・ルールが、結果的にこれまで荷主に対する低廉な運賃を実現したことも見逃せない。
 
JAグループは、JR北海道に対しては石北本線の維持、JR貨物に対してはこれに加えて貨物列車の輸送力確保を訴え続けている。だが、JR北海道は路線維持の条件としてJR貨物に対し、「アボイダブルコスト・ルール」の適用除外を求めていくのは間違いない。そうなれば貨物列車が存置されても運賃はさらなる上昇が見込まれる。物流経費が上がれば北海道産農産物の価格競争力は低下する。値上げを認めなければタマネギ列車の将来はないだろう。一筋縄ではいかない問題がこの路線には横たわっているのである。


ランキング参加中です。みなさまの「クリック」が明日への糧になります。よろしかったら、ポチっとな
にほんブログ村 鉄道ブログへ にほんブログ村 鉄道ブログ 鉄道旅行へ 鉄道コム

|

« JR北海道「維持困難線区」は何処へ【5】石北本線(その1) | トップページ | JR北海道「維持困難線区」は何処へ【7】石北本線(その3) »

JR北海道経営問題」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: JR北海道「維持困難線区」は何処へ【6】石北本線(その2):

« JR北海道「維持困難線区」は何処へ【5】石北本線(その1) | トップページ | JR北海道「維持困難線区」は何処へ【7】石北本線(その3) »