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2018/06/25

シンガポールからのお客様【4】

これまでのお話、【その1】 【その2】  【その3】


 6月16日、土曜日。T君が日本を去る日になった。
 前夜のさよならパーティの盛り上がりが残ったのか、家族揃って少々寝坊し、10時近くに起床。昼食と荷物の整理で時間はあっという間に過ぎ、15時過ぎに自宅を出発した。


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 我が家から空港までは車で約1時間。途中少しだけ遠回りして、山の緑に囲まれた国道453号線を走り、少々冷たい風が吹きつける支笏湖を散策する。そこから30分ほどで新千歳空港。チェックインと買い物を済ませて、T君が日本での最後の夕食に選んだのはラーメン。最後の晩餐にしてはチープで、どこまでも奥ゆかしい話だが、滞在中何度か食べる機会があったようで、とりわけ醤油ラーメンがお気に召したらしい。
 最後の1杯は旭川ラーメン「鷹の爪」。相変わらずあまり表情を動かさず、「おいしいです」と短く言うT君の箸は黙々と動き続けていた。


 19時少し前に、集合場所になっている2階出発カウンター前に行く。他の団員と家族たちも順次集合し、全員揃ったところで保安検査場前に移動して最後の集合写真。いよいよお別れとなり、引率の先生が保安検査場へ皆を促すが、どの団員もなかなか動こうとしない。特に女子の団員は過半が涙まじりにハグしたり握手を交わしている。
 彼らは単に2週間の滞在ではなく、前年のシンガポールでの滞在以来1年近くにわたる絆を深めてきたのである。シンガポールでの別れは、翌年の再会が保証された別れだった。だが今回の別れは、次の約束のない別れである。誰もがその時間を止めたい、と感じていたに違いない。


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 そういう状態がやや10分以上も続き、淡泊なT君も周囲に気を遣ってかなかなか動けずにいたが、やがて意を決したように先頭に立って保安検査場の列に着いた。ようやくほかの団員も後に続く。上の坊主と最後の握手を交わし、ゆっくりと時間をかけて保安検査場の向こうへ去っていった。全員が保安検査場を抜け、搭乗口に向けて移動をはじめるまで、T君は何度もこちらに向かって手を振ってくれた。とても柔らかい表情をしていた。


 T君を見送った私たち一家は、1年前と同様に私が駐車券を紛失するというアクシデントを経て、21時過ぎに札幌の自宅へ戻って来た。テレビをつけてほっとひと息をつくが、どうにも落ち着かない。何かが欠けている。


 下の坊主は就寝間際、「T君、もういないんだね」とぽつりと漏らしたあと、兄の部屋からT君が使っていた布団を引っ張り出して自分の部屋に持っていき、その上に横になってほどなく眠りについた。
 深夜、上の坊主の部屋を覗くと、こちらもベッドの上でスマホをいじりながら、なんとなく寝付けない様子だった。下の坊主が布団を持っていってしまったあとにはぽっかりと空間があいており、そのことが、少し張りつめつつも楽しかった2週間が過ぎ去ったことをあらためて実感させた。その何とも言えない寂しさは、9年前、海外研修の時、語学学校の最終日の帰りに、たくさんの友達と別れた後の気分に似ていた。


 要するに喋る、喋らないが大きな問題だったわけではない。わずか2週間とはいえ、一緒に生活をしていた、それだけで十分な存在感だったのである。自身がホームステイをした体験も得難いものではあったが、ホームステイに来た外国の子供を受け入れるということは、これまた私の人生の中で得難い体験であったと思う。
 その喪失感はそれからしばらくの間続き、私は、案外自分はいずれ、子離れできない親になるのかな、などと考えたりした。


 最終日の昼食の席で、私は坊主たちとT君にこんなことを伝えた。
 もし今回の交流が楽しかったと思えるのなら、ずっと友達でい続けてほしい。連絡を取り合って、いつか成長した後にまた再会できるように。外国での生活体験はもちろんだけど、たくさんの友達、まして他の国に友達ができるということはとても貴重な財産だと。


 日本語と下手くそな英語のちゃんぽんだったから、ちゃんと伝わったかどうかはわからない。けれどもきっと伝わったと信じている。彼らにそんな日が来てくれたら、それが今回の最大の収穫だったといえるのではないか、と思っている。
 そしてその目標に向かって、坊主たちが多少なりともお勉強に注力してくれるのではないか、という淡い期待も多少、抱いているのである。


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コメント

こんにちは。
よい経験をされましね。
別れと出会いが人を大きく成長させてくれますし、自分のの国や日本の文化についても考えるよい機会になったでしょうね。私も小学生の時にアメリカにいたのでその時の友達や先生と長く文通していました。自身を顧みると子どもの頃の異文化体験はその後の人生に大きく影響を与えるものですね。

投稿: poem | 2018/06/25 11:38

 poemさん、いつもありがとうございます。
 そういえばpoemさんは帰国子女でいらっしゃいましたね。小学校、中学校という、吸収力が高く多感な時期に異文化交流ができるというのはうらやましいことだと思います。あとは今回の体験からどの程度のものを吸収し、さまざまな考え方を見せてくれるのか。期待はしておりますが、なにせ私の子供なのであんまりアテにならないような気もしています。

投稿: いかさま | 2018/06/26 21:31

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