音楽の旅人

2013/06/24

いかさま音楽堂【1】村下孝蔵を偲ぶ

珍しく音楽の話を。

私が中学2年生の時の話である。当時のクラスは、朝と帰りのホームルームの際に、クラス全員で歌を歌う、という習慣があった。

記憶は定かではないが、「校内合唱コンクール」か何かの練習の延長線上にあったものではないかと思う。おそらく、当時やや荒廃しつつあった学校の中で、みんなで声を出して歌うことで一体感を生み出そう、という発想だったのだろうが、ともかくコンクール終了後も1年間、私のクラスからはHRの時間になると歌声が響いた。

1度に3曲を選び、ローテーションで歌う。1~2か月ごとに1度選び直されるから、おそらく1年間で数十曲を歌ったのではないかと思う。
曲は合唱曲ではなく、当時の流行歌からクラス全員の投票で選ばれた。だから「おニャン子クラブ」とか「南野陽子」とか、どうみても合唱にはそぐわない歌が選ばれたりもするのだが、その中の1曲に、村下孝蔵の「初恋」が選ばれたことがある。

この曲がヒットチャート上位に登場したのが1983年。当時はよく売れたはずだが、それから3年もたったこの時に我がクラスの曲として選ばれた理由はよく覚えていない。中学2年生の私にこの曲に込められた思いを理解することは到底不可能だったが、なんとなく「いい歌だな」という印象を持ったことは覚えている。

Utabito社会人になって、ふと思い出して、村下孝蔵のベストアルバムを2枚ほど買ってみた。そして、好きになった
村下孝蔵の曲の中には、アニメ「めぞん一刻」のオープニングに使われた「陽だまり」のような明るい曲もあるけれども、どちらかというと、「秘めた恋」あるいは「報われぬ愛」といった寂しさを、女性視線、あるいは時に男性視線で描いた詩が多い。上に出てきた「初恋」や、それに続くシングル曲「踊り子」などもそうである。
そんな人の心の繊細さを歌い上げる村下孝蔵は、決して色男とは言えないけれども、その声は、とても優しく、美しい。心の中にゆっくりと積もっていくような趣がある。「夢の跡」「とまりぎ」、それにベストアルバムのタイトルにもなった「歌人」などは、私の最も好きな歌である。

村下孝蔵のアルバム、あるいはシングルを決定的に印象付けるのは、寂寥感の漂う女性を描いた切り絵のジャケットである。この切り絵の作者は村上保さんといい、切り絵だけでなく彫刻家としても名の通った方だそうだが、村下孝蔵が歌いあげる世界を象徴しているような、なんとも味のある絵だと思う。


村下孝蔵は、1999年、リハーサル中に高血圧性脳内出血で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。まだ46歳、あまりにも若く、惜しい死だった。
命日は今日、6月24日である。

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