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2012/05/20

本棚:三島由紀夫と太宰治 もうひとつの顔

■三島由紀夫「不道徳教育講座」

Img_0107「三島由紀夫」と「不道徳」という、タイトルだけで悩殺されて手に取ってみた。
昭和33年に女性週刊誌に連載されたこのエッセイ集は、

・教師を内心馬鹿にすべし
・弱い者をいじめるべし
・人のふり見てわがふり直すな

などと並ぶサブタイトルを見ているだけでも愉快な気分になれる。おまけに文章は軽妙洒脱だ。「仮面の告白」やら「金閣寺」やらを書いた人だとは思えない。豊富なレトリックとシニカルな視点で、50年も前の文章なのに、現代に通ずる部分も多分にあって、文句なしに面白い。

さらに面白いのは、いわゆる「道徳」あるいは「美徳」とされているものを否定し、「不道徳」あるいは「悪徳」を肯定しているにも関わらず、結果として真っ当な道徳が正道である、という結論に達する所である。言葉と理論の華麗なマジックである。全体を通してこの本からは、「逆説でありながら正論」という一連の流れを感じる。
そう言えば20年ほど前に、「ほめ殺し」が流行語になったことがあったが、あれもこの手のマジックの一種であろう。もっとも、こちらには文学的センスは感じられないが。

この本の中での三島は、「自殺」あるいは「再軍備」「戦争」などに対する否定的な文章を随所に覗かせている。けれども実際の三島は、このエッセイを書いた12年後、憲法9条の廃止と自衛隊の国軍化を訴え、市ヶ谷で割腹自殺を遂げる。これも逆説だったのか、あるいはその後に彼の思想を変えていく何かがあったのか、それはわからない。彼の本をもっと読み込めば、手掛かりは出てくるのかもしれない。

■森見登美彦編「太宰治傑作選 奇想と微笑」

Img_0087太宰治と言えば「津軽」「斜陽」「人間失格」と、読み進むにつれて気分が堕ちていくような小説が多いのだが、この本は、その太宰の短編の中から選りすぐりの「おかしな」小説選集である。
私のオススメは「カチカチ山」「畜犬談」「女の決闘」。特に「カチカチ山」は絶品である。あの有名な昔話の兎と狸を「処女とおっさん」になぞらえて解釈する、という内容は、悲しくも面白い。私は自分が狸になったつもりで読み進み、最後の「惚れたが悪いか。」と言う一節に、そこはかとない哀愁を感じた。
「畜犬談」「女の決闘」は、「青空文庫」という電子本サイトで読むことができる。

ネットなどで太宰治の写真を見ると、非常に気難しさの中にどこか甘えたような表情が垣間見え、三度の心中を試みた人らしい弱さが窺える。そうして見たとき、「人間失格」も「カチカチ山」も、人間の弱さやダメ人間ぶりがベースになっているということに気付く。

どちらかというと「太宰治」よりも「森見登美彦」の名に魅かれて借りたような本だが、太宰治の全く違う一面が見えたという点で大いに面白かった。
ちなみに森見登美彦は、「新釈・走れメロス」の中で、太宰治の名作をコタコタに料理したような小説を展開している。こちらもまた、読み進むうちに吹き出さずにはいられない。

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コメント

太宰の文章で一番いいのは、生きるのってしんどいなーと思いつつ何か笑っちゃうみたいな部分だと思うんですが、メジャーな作品はほとんどずどーんと重いのばっかりですよねー。個人的には「ろまん燈籠」おすすめです。

投稿: 新 | 2012/05/31 20:24

新さん コメントありがとうございます。
小説も人生と同様、重さや辛さの中に、それを笑っちゃえ的な要素が欲しいですね。
「ろまん燈籠」は青空文庫で見つけましたので、時間のあるときに読んでみようと思います。

投稿: いかさま | 2012/06/02 23:22

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