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2013/05/12

記憶と記録【3】 写真の話

旅の記録にかかわってくる重要な要素と言えば「写真」である。

昨今、いろいろな方のブログを拝見していると、美しい風景をおさめた写真が数多く載せられている。それは日常の何げない風景だったり、観光地や景勝地の風光明媚な姿だったり、逞しい列車の姿だったりする。

私自身は、というと、写真を撮ること自体は嫌いではないし、それほど下手だとも思わないが、写真を撮る「タイミング」が非常に下手くそなのである。旅先ではいろいろなものを撮り散らかして、写真の点数はかなりの数に上るのだが、肝心なものを撮ることを忘れていたり、ということが大変多い。

これにはいくつか要因があるが、そのひとつとして、私が青春時代をフィルムカメラで過ごしたことも無関係ではないだろう。

好きなだけ撮影して気に入らないものは消去し、気に入ったものだけプリントすればいいデジカメ写真と違い、フィルムカメラはやり直しがきかない。フィルム本体は当時36枚撮りで600円から700円、それを同時プリントすると、どれほど安いところでも1,000円は下らなかったと思う。つまり、写真1枚に40円から50円のコストがかかっていたわけで、必然的に撮影する場面も厳選していたし、1枚1枚の写真を撮るのにも慎重さがあった。

その結果、例えば、高校2年の九州一周旅行(2週間)では約100枚、大学卒業時の日本一周(1か月)では約150枚の写真が残っている。1日当たりに直すと5~7枚程度に満たない。おまけにその大半は列車や駅の写真だったりする。中には観光地での写真もあるが、のちのちの記録用にと立て看板の内容を記録するために撮ったものもあったりして、純粋に観光風味の写真など数えるほどしかない。

今ならば4~5日の旅行で2~300枚は当たり前に撮るが、若かりし頃についた癖~写真は最低限、なるべく自分の眼に焼きつける~は容易には抜けないらしく、まじまじと風景を眺めているうちに写真を撮ることを忘れ、後で気がついて後悔する、ということがままある。
特にブログに写真を載せてやろう、と意気込んでいるときに限って、肝心の場面で使いたい写真が1枚も手元になかったりする。

例えば何度も触れた海外研修の時、公私の「私」の部分だけで私は60日間に1,200枚近い写真を撮っているが、ボストンで毎日乗ったスクールバスの写真やニューヨーク・ミラノの地下鉄、デュッセルドルフやミラノ、フィレンツェの中央駅などは手元に写真が残っていない。宿泊したホテルも残っているのはシカゴ・ポートランド・ロンドン・パリくらいである。ノルウェースタヴァーンという海岸に面した非常に美しい街、ベルギーウェステルローという街路樹のきれいな静かな街など、街の美しさに見とれるあまり、1枚の写真も残っていないというていたらくである。

宮脇俊三阿川弘之の紀行文などを読むと、本文中に写真が一枚も入っていない。写真に頼らず、すべて文章でその情景を伝える筆力には、さすがプロだと感服するが、私ごときの拙い筆力では上手く伝えられない。「美しい」「綺麗」という平板な語彙では何も伝わらないに等しく、そこでしっかり写真を撮ってこなかったことが重ね重ね悔やまれる。

写真だけに頼った風景の記憶は風化するのも早い。自分の眼に焼きつけた風景は、鮮烈な印象となって記憶に残る。
けれども、いかに強い記憶であっても、時間の経過とともに記憶は変質したり、薄れていったりすることもある。写真による「記録」は、断片的であっても「記憶」を補充する十分な存在になりうる。写真に撮れなかった数々の風景は、時折、思い出してやらないと、だんだん薄れていってしまいそうで、切ない

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コメント

懐かしいなっ フィルムカメラ
今と違い写真屋さんが全盛だった頃
お店の好意でその中のベストショット的なものを1枚
2Lサイズに引き伸してくれてありました

いつかネガから他のメディアにデータ落としたいと
思ったまま、まだ収納棚で眠っています

投稿: buzzっち | 2013/05/13 07:38

写真はいつの間にかセピアカラーに染まっています
記憶も同様なのですよね
それでも、過去の記憶の方が昨日の記憶より鮮明だったりするようになると、つくづく年を感じます
人…ですから。そういう切なさもまたよいものです

投稿: と~まの夢 | 2013/05/13 21:22

今日の記事、まったく同感です。ことばと写真と・・・とにかく手段を使って、その場面場面の感動した気持ちを残していきたいと思っています。

投稿: キハ58 | 2013/05/13 22:47

>buzzっちさん
いつもありがとうございます。

昔は街外れの小さな商店でも、DPEの取り次ぎをしていたものですが、最近はあまり見かけなくなりましたね。2Lサイズのサービスは、僕の高校の近くにもあって、ずいぶんお世話になりました。

わが家は10年近く前に買ったEPSONのスキャナがフィルム対応でしたので、古い写真をだいぶデータ化してPCに取り込みました。この先もご紹介できる場面はあると思います。

投稿: いかさま | 2013/05/15 00:45

>と~まの夢さん
いつもありがとうございます。
記憶については以前も書きましたが、自分にとって不都合な部分が抜け落ちて、非常に都合の良い形に変わっていくことが往々にしてあります。それは風景も同じで、何年かたって再度訪れてみると、自分が記憶していたものとかなり違ったりすることも少なくありません。

昨日の記憶より過去の記憶が鮮明、については、確かにそういうところが昨今僕も出てきたような気がします(笑)歳のせいかもしれませんが、強い印象、記憶は、多少形を変えても長く残っていくものですよね。

投稿: いかさま | 2013/05/15 00:48

>キハ58さん
いつもありがとうございます。

共感していただけて嬉しいです。自己満足で始めたブログではありますが、たくさんの方にお越しいただけるようになり、どのようにして旅の楽しさ(あるいはおかしさ)を伝えていこうかと苦心しています。率直な感想や気持ちをストレートに文章に落とし込んでいけるよう、頑張りたいと思います。

投稿: いかさま | 2013/05/15 00:50

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