国鉄改革を復習してみた【2】なぜ「分割」だったのか
国鉄改革を子供の視点で眺めていた私にとって、最大の疑問は、「なぜ分割しなければならなかったのか」である。この疑問を抱いていた人は意外と多かったように思う。
各種の文献によれば共通しているのは、組織を再建するためには全国一元の企業体はあまりにも巨大すぎる、ということであった。わかったようなわからないような論理である。
国鉄の少し前に民営化された電電公社(NTT)や専売公社(JT)は、その後はともかくその時点では全国一元の組織体系だった。ただ、国鉄が他の2公社と決定的に違ったのは、多額の負債と複雑な労使関係を抱えてある種の「リセット」が必要だったことと、全国一律のサービスを提供する必要性が薄れていたことにあった。
国鉄は、公共企業体になるはるか以前から、旅客・貨物の両分野において、長距離輸送の圧倒的なシェアを持ち、それを軸として全国一律のサービスを提供してきた。
しかし、1960年代からその役割は急速に変化していった。航空機の発達により長距離旅客の減少が進み、高速道路の整備により貨物輸送の減少も顕著になった。都市の過密と地方の過疎化が進行したことで、都市圏のラッシュ時の混雑は深刻化し、地方のローカル線は乗客を減らしていった。
前回、国鉄経営悪化要因の(2)で書いたとおり、こうした状況が進みながら、国鉄の対応は後手に回った。それは巨大組織ゆえの血の巡りの悪さもあっただろうし、全国一元であるがゆえに地域の実態に応じた柔軟な施策がとれなかったこともあるだろう。都市圏輸送と短・中距離都市間輸送に使命の変わった鉄道を実態に合わせて柔軟に運営させるために、地域分割は必要なことであったのだろうと思う。
国鉄の経営形態に関する議論の中で、当初は民営化を先行させ、その後の状況により分割を検討する「出口論」が主流だった。国鉄幹部をはじめ、政治家の間にも、いったん実施してしまうと逆戻しが難しい「分割」には消極的な意見が多かったとされ、民営化と同時に分割を実施する「入口論」は少数派であった。
その流れを変えたのが、当時自民党国鉄再建小委員会の委員長だった三塚博代議士の「国鉄を再建する方法はこれしかない」の出版であった。この本の中で、当初出口論を唱えていた三塚氏が、悪化し続ける国鉄財政と職場規律問題を背景に、入口論へと舵を切ったことで、国鉄解体の流れが出来上がったと言われている。
だが、それでもなお、分割民営化が最良の処方箋であるかどうかについては、かなりの人々が懐疑的にみていたようである。三塚氏も先の著書の中で、「本州・北海道・四国・九州」の4分割論を第一段階として提案している。これは、三島の分離を先行させて、本州はその後地域実態に応じた分社化・子会社化を進めていこうという主旨である。あくまで分割を前提としながら、その後の取り進めは自然の流れに任せる、としており、「出口論」の立場に立ちながらも「入口論」の要素も含んでいる。
三塚氏が著書の中で述べているように、国鉄分割民営化は最終的には本州をどうするか、というものだったと言える。分割の効果をより高めるためには、実態に応じてなるべく細分化してスリム化を図るのが一番だが、一方で国鉄の収益力は新幹線と大都市圏輸送に集中しており、これらを持たない分割会社の経営が早晩行き詰まるのは目に見えていた。
最大で5分割程度まで考えられた本州の分割は、首都圏輸送を持つ東日本会社と、東海道・山陽新幹線を持つ西日本会社の2分割を軸に、収益調整弁として東海道新幹線を有する東海会社をさらに分離する3分割に向かった。
この考え方は、分割後の東日本会社を最も収益力の高い「看板会社」として成功モデルとし、万一分割民営化がうまく機能しなかった場合でも容易に再編がおこなえる体制とするためだったようである。新幹線を収益調整弁とする仕組みとしては、新幹線の施設をJR各社に帰属させずにリース料という形でJR各社から吸い上げ、債務の返済と収益調整を図ることになった。そのための組織として「新幹線保有機構」が設置されるわけだが、これについては次回で触れる。
分割民営化から30年が経過し、JRは他の交通機関も含めた機能分担の中で、最重要と考えられる部分に重点投資し、その機能を高めていくことに成功した。これはJR全社に共通している。「JR東日本看板会社構想」も、特にJR東海・西日本が堅調な経営推移を見せる中で独自の社風と施策を打ち出し、ある種の杞憂に終わった。
だが、その一方で「地域分割」の形は、三島会社、特に北海道と四国を問題の蚊帳の外に置き、収益力格差を生み出すに至った。これは当初から想定されていた結果ではあるが、「分割」の形と「収益力」の考え方についてはもう少し深く見てみないとわからない部分が残っている。
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コメント
こんにちは。
今更の話ですが、現状JR旅客6社と同格の、すべての新幹線だけを分割したJR新幹線のようなものがあれば、状況はかなり違ったと思います。
JR新幹線があれば、新幹線が新設された場合の並行在来線は別会社なので、並行在来線は廃止や分離をする必要性がほとんど無かったと感じます。
また、無用な新幹線新設に対しては並行在来線会社が猛烈に反対したはずです。おそらく、青函トンネルに新幹線を通すことは不可能になったでしょうが、私はそのほうがよかったと思っています。
JR新幹線としても、儲けの見込めない路線新設はしないでしょうし、強大な力を持つ会社になる可能性が高いので、政府の方針を突っぱねることもできたでしょう。
JR新幹線があるならば、もちろん本州旅客会社も各社収益性が低くなるでしょうから、現状ではダメです。
東京圏と大阪圏を中心とした2社でいいと思うのですが、3社必要ならば、現状のうちJR東海をJR中日本と言えるぐらいにエリアを広げないとバランスが取れません。
というか、在来線会社は全国で2社で充分だったと思います。四国や北海道などから鉄道をなくすつもりならば不採算エリア担当の旅客会社は有効な手段だと思いますが、残すつもりならば不採算の穴埋めをできる会社でないとならないです。
要は、新幹線と在来線は、飛行機と船ほどの違いがあるということです。
投稿: とに | 2017/05/02 12:44
とにさん、コメントありがとうございます。
分割という手法自体はともかく、分割の方法(どう割るか)については私も正直「これがいい」と思えるものが見つかりません。さりとて現在のJRの状況を見る限りこれが唯一の正解だったとも思えず、非常に難しい問題だと思います。
ご指摘の新幹線だけを別会社にするという方法もひとつの安価とは思いますが、これはよほど利益配分の方法や今後の事業展開への制約をしっかり決めておかないと逆にまずい展開になったのではないかと思います。この辺りは次回以降に考察しようと考えていますので詳細は避けますが、収益性の比較的高い新幹線会社だけが膨張し、在来線会社は並行在来線問題で苦しみ、それ以外の路線経営も圧迫された可能性の方が高いと思います。
結局どう分割してもひずみは間違いなく残ったわけで、してみると国鉄改革のために「分割」がどうしても必要だったというのならば、むしろ社会資本としての鉄道を残すための「仕組み」をもう少ししっかり考えるべきだったのかもしれません。さまざまな本を読みましたが、国鉄改革が肝心の部分で意外と場当たり的に進められたところもあるように感じられました。
投稿: いかさま | 2017/05/07 00:50
いかさまさん、お返事ありがとうございます。
過去は変わらないので未来の話をすれば、JR九州は独自色を強めつつ自力でやっていけそうなので、今のままでがんばってほしいです。
JR東日本はJR北海道を、JR西日本はJR四国を、傘下に収めるか、吸収するのがベストと考えますが、株主が賛同しないでしょう。JR東日本の株主である私も、株主的な考えでは反対です。
上場企業となったからには、不採算事業は排除するか黒字化が求められるので、赤字区間は廃止するか黒字化が求められます。
短距離旅客がなければ長距離旅客に頼るしかないので、幹線であれば、在来線の広軌(標準軌)への改軌(新幹線在来線直通)が必要だと思います。
人口密集地以外の末端路線は鉄道には不向きです。それは、世界のどこを見ても明らかです。鉄道ファンとしては悲しいですが、どうしても残すべきだという方が居たら、その方が経営をすればいいでしょう。
要は、民間会社に、政府や地方自治体が口を出しすぎということです。成り行きに任せて、どうしても納得がいかなければ国営なり県営なりでやればいいです。国民や県民が認めるならばですが。
投稿: とに | 2017/05/09 21:28
とにさん、ありがとうございます。
次のブログでも書きましたが、国鉄分割民営化は鉄道を国のものから株主のものに変えることでした。当時の状況としては、国・政府による関与を抑えて独立した経営を確保しなければ鉄道は立ちいかなくなるという視点によるものだったのだろうと思いますが、そうはいってもほかの産業とは違い、交通インフラは地域社会の基盤のひとつです。その活用方法は自治体も含めてしっかりと協議していかなくてはならないと思います。
昭和中期までと異なり、鉄道は地域経済にとって唯一無二の存在ではなくなっています。限られた財政の中でどうやって町の機能を維持していくか。声高に反対を唱えるだけではなく、真剣に考えるべきタイミングだと思います。
投稿: いかさま | 2017/05/15 01:35