国鉄改革を復習してみた【4】長期債務37兆円の行方
これまでの記事はこちら。⇒【その1】 【その2】 【その3】
国鉄が解体される際、国鉄が残した「借金」、いわゆる長期債務は25兆600億円に達していた。国鉄が残したこの膨大な借金は、分割後の旅客会社と、国鉄の清算法人である日本国有鉄道清算事業団が承継して返済するスキームが組まれた。
JR各社の負担については、それぞれの会社の経営シミュレーションにより、営業収支の1%程度に相当する経常利益を生むことができるよう、資本と負債の調整が行われた。つまり、高利益が予想される会社には債務負担を大きくし、逆に赤字が想定される会社に対しては債務負担を免除したうえで、経営安定基金を積み立て、その運用益で赤字の補てんをおこなうことになった。
これにより、黒字経営が予想された東日本・東海・西日本の本州3社が計5兆9,300億円、新幹線保有機構が5兆6,300億円を負担することとなる。新幹線保有機構の分はリース料として本州3社が支払うため、3社の実質負担は11兆5,600億円となった。
その後、新幹線保有機構の解体により、新幹線施設は再評価のうえ計9兆2,000億円で本州3社に譲渡された。本州3社の長期債務残高は、この際に一時的に増加したが、2016年3月期の時点で3社合計で6兆1,887億円となっている。公開されている数字は各社とも連結ベースであり、民営化後に発行された社債等も含んでいるので単純比較はできないが、少なくとも当初から5兆円以上減少している。
一方、国鉄清算事業団は、北海道・四国・九州の三島会社に計1兆2,800億円積み立てられた経営安定基金や、津軽海峡線・本四備讃線に関する債務5兆1,100億円、将来的な年金負担などの費用5兆6,600億円を加え、25兆5,500億円の長期債務を引き継いだ。返済原資は、旧国鉄用地とJR各社株式の売却益とされていたが、当時の試算ではすべて売却してもなお14兆円の債務が残るとされており、最終的にこれは国民負担になる見通しであった。
しかし、国鉄清算事業団の承継債務は、バブル景気による土地価格の暴騰を受けた売却抑制により、償還が進まなかった。細々と進められた土地売却益や本州3社の上場による株式売却益は、大半が当時の高金利を背景とした巨額の利払いのために消えた。
1998年10月に国鉄清算事業団は解散し、その業務は日本鉄道建設公団(のち鉄道建設・運輸施設整備機構)に引き継がれたが、この時点での長期債務残高は28.3兆円と、分割民営当初より膨張していた。
この残高の中で、年金負担費用に相当する4.1兆円のうち4兆円は、公団・機構が承継して土地・株式売却収入により償還し、0.1億円をJR6社が議論の末追加負担として受け入れた。
残る24.2兆円は国の一般会計に組み込まれ、新たに導入された「たばこ特別税」などを財源として償還が進められている。すなわち国民負担となったわけで、分割民営化時に想定された金額からは7割以上も増加したことになる。2016年3月末の残高は17.8兆円となっている。
JR各社、とりわけ本州3社の経常利益率(連結)は、2016年3月期決算で最も低いJR西日本で11.2%、最も高いJR東海では29.4%にも達している。また、JR九州も、経営安定基金の運用益を除いても経常利益の出る状況になり、2016年度に完全民営化を達成している。これは4社の営業努力の賜物であることはもちろんだが、その一方で長期債務にかかる国民負担は増大しているのが現実である。
このアンバランスな状況が当初から想定されたものだったのかどうかは定かではないが、国民負担の軽減という視点から見れば、どうにも釈然としない状況であることは間違いない。完全民営会社となったJR4社に新たな債務を負担させることは不可能であり、長期債務問題に関する限り、国鉄分割民営化の目論見は完全に破たんしたといえる。
国鉄改革から30年が経過し、この問題がメディアなどで取り上げられる機会は激減したが、長期債務の問題は未だ処理完了しないまま次の世代まで持ち越されることになっている。もはや存在しない企業体のために1人当たり毎年数千円の税負担をしている、ということは、覚えておいてよいと思う。
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国鉄が解体される際、国鉄が残した「借金」、いわゆる長期債務は25兆600億円に達していた。国鉄が残したこの膨大な借金は、分割後の旅客会社と、国鉄の清算法人である日本国有鉄道清算事業団が承継して返済するスキームが組まれた。
JR各社の負担については、それぞれの会社の経営シミュレーションにより、営業収支の1%程度に相当する経常利益を生むことができるよう、資本と負債の調整が行われた。つまり、高利益が予想される会社には債務負担を大きくし、逆に赤字が想定される会社に対しては債務負担を免除したうえで、経営安定基金を積み立て、その運用益で赤字の補てんをおこなうことになった。
これにより、黒字経営が予想された東日本・東海・西日本の本州3社が計5兆9,300億円、新幹線保有機構が5兆6,300億円を負担することとなる。新幹線保有機構の分はリース料として本州3社が支払うため、3社の実質負担は11兆5,600億円となった。
その後、新幹線保有機構の解体により、新幹線施設は再評価のうえ計9兆2,000億円で本州3社に譲渡された。本州3社の長期債務残高は、この際に一時的に増加したが、2016年3月期の時点で3社合計で6兆1,887億円となっている。公開されている数字は各社とも連結ベースであり、民営化後に発行された社債等も含んでいるので単純比較はできないが、少なくとも当初から5兆円以上減少している。
一方、国鉄清算事業団は、北海道・四国・九州の三島会社に計1兆2,800億円積み立てられた経営安定基金や、津軽海峡線・本四備讃線に関する債務5兆1,100億円、将来的な年金負担などの費用5兆6,600億円を加え、25兆5,500億円の長期債務を引き継いだ。返済原資は、旧国鉄用地とJR各社株式の売却益とされていたが、当時の試算ではすべて売却してもなお14兆円の債務が残るとされており、最終的にこれは国民負担になる見通しであった。
しかし、国鉄清算事業団の承継債務は、バブル景気による土地価格の暴騰を受けた売却抑制により、償還が進まなかった。細々と進められた土地売却益や本州3社の上場による株式売却益は、大半が当時の高金利を背景とした巨額の利払いのために消えた。
1998年10月に国鉄清算事業団は解散し、その業務は日本鉄道建設公団(のち鉄道建設・運輸施設整備機構)に引き継がれたが、この時点での長期債務残高は28.3兆円と、分割民営当初より膨張していた。
この残高の中で、年金負担費用に相当する4.1兆円のうち4兆円は、公団・機構が承継して土地・株式売却収入により償還し、0.1億円をJR6社が議論の末追加負担として受け入れた。
残る24.2兆円は国の一般会計に組み込まれ、新たに導入された「たばこ特別税」などを財源として償還が進められている。すなわち国民負担となったわけで、分割民営化時に想定された金額からは7割以上も増加したことになる。2016年3月末の残高は17.8兆円となっている。
JR各社、とりわけ本州3社の経常利益率(連結)は、2016年3月期決算で最も低いJR西日本で11.2%、最も高いJR東海では29.4%にも達している。また、JR九州も、経営安定基金の運用益を除いても経常利益の出る状況になり、2016年度に完全民営化を達成している。これは4社の営業努力の賜物であることはもちろんだが、その一方で長期債務にかかる国民負担は増大しているのが現実である。
このアンバランスな状況が当初から想定されたものだったのかどうかは定かではないが、国民負担の軽減という視点から見れば、どうにも釈然としない状況であることは間違いない。完全民営会社となったJR4社に新たな債務を負担させることは不可能であり、長期債務問題に関する限り、国鉄分割民営化の目論見は完全に破たんしたといえる。
国鉄改革から30年が経過し、この問題がメディアなどで取り上げられる機会は激減したが、長期債務の問題は未だ処理完了しないまま次の世代まで持ち越されることになっている。もはや存在しない企業体のために1人当たり毎年数千円の税負担をしている、ということは、覚えておいてよいと思う。
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