シンガポールからのお客様【2】
前回の続き。
6月3日の日曜日に我が家にやって来たT君。2週間の滞在を終えて、昨夜、新千歳空港からシンガポールへ帰っていった。
わずか2週間の滞在は、かなりのハードスケジュールであった。平日10日間のうち3日間は、シンガポール団員単独での視察研修で札幌近郊の観光名所や施設を回るが、残り7日間は、上の坊主と一緒に学校へ通い、一緒に授業を受けた。
坊主の学校は我が家から少々遠く、通学にはバスと地下鉄、徒歩で1時間10分ほどかかる。7時前には家を出て学校へ行き、帰ってくるのは19時近くなる。T君は普段、学校へは両親の送迎で20分ほどの通学時間だというから、これだけでもかなりの負荷がかかったであろうことは想像に難くない。
通常学校が休みになる9日の土曜日も、ラーニングセミナーと呼ばれる特別授業があり、上の坊主とT君はふたりで学校へ行って受講していたが、その帰り、大通公園で途中下車して、ちょうど開催中だった「よさこいソーラン祭り」を見物して帰ってきた。札幌名物と言えば言えなくもないが、終日フリーになる日曜日は、できればもっと北海道らしい、あるいは日本らしいところへ案内したいと思うのが、ホスト側としての心情である。
10日の日曜日、朝9時半頃に家族そろって車で自宅を出発し、国道230号線を南へ走って、喜茂別町との境、中山峠で休憩、名物の「あげいも」を食べる。
ここから先の予定ははっきり決めていない。天気と気分次第で選択できるように、何パターンかの行程を用意してある。T君が来日して以来、夏日が続いた札幌近郊だったが、金曜日にまとまった雨が降った後急激に気温が下がっていて、野外活動には少々不向きな気候になっていたためである。赤道直下の国の人がしんどい寒さにならないよう配慮しなければならない。
この日も最高気温は20度に届くか届かないかというくらいであったが、羊蹄山がくっきりと見える陽気で、比較的風も弱く、気候としては悪くない。喜茂別町あまりに冷え込むようだったら、230号線をそのまま南へ向かい、洞爺湖、登別温泉を回ろうと考えていたのだが、私はT君の意思も確認したうえで、車を喜茂別町から国道276号線を西へ走らせた。京極町のふきだし公園、ニセコ町のニセコ高橋牧場を経由して、倶知安町の「ライオンアドベンチャー」のベースに13時半に着いた。目的はラフティングである。
北海道伊達市と千歳氏の境界付近を水源とし、羊蹄山の北側を流れる尻別川は、国内有数の水質を誇る河川で、ビギナー向けのラフティングのメッカである。嫁と子供たちの3人を送り出し、私は地上で写真を撮る。尻別川に架かる橋の上から眺めていると、大量の水を湛えた水面を、ボートがこちらへ向かってきた。大きく手を振ると連中がこちらを見上げた。普段緊張気味のT君の表情も緩んでいる。
2時間ほど後にベースへ戻って来た彼らは、全身びっしょり。この気候の中、あの冷たい水の中へざぶりと飛び込んだようである。
倶知安町からは国道5号線を北へ向かって、余市町の「柿崎商店」で食事。魚屋の2階が食堂になっており、新鮮な刺身を盛った丼を手頃な値段で堪能できる。サーモンの刺身とイクラの載った「いとこ丼」は1,400円。昔と比べると安さの感動はなくなっているが、それでもコスパは悪くない。T君もおいしそうに食べてくれた。
さらに国道5号線を走って、小樽運河をちらりと眺めた後、道道1号線の朝里峠を越えて、定山渓の少し札幌寄りにある小金湯温泉「湯元小金湯」で体を温めることにする。
シンガポールのT君は、普段シャワーだけの生活で、私たちの家でも湯船に浸かったことはなく、大丈夫か、と確認の上での温泉体験だったのだが、以前日本に来た際に経験済みだったらしく、まったく抵抗なく脱衣所で裸になり、露天風呂にもしずしずと浸かった。声を出すでもなくのんびりと温まっている姿は、わが兄弟と完全に同化していた。
食べ物についてもそうだったが、こういうところは実に手がかからないというか、およそすべての体験をすんなりと呑み込んでくれる。ただ、非常に言葉少ななところだけは日数を重ねても変わらず、表情で何となく楽しんでるなあ、というのはわかるものの、実のところ本当に楽しかったかどうかの確証が得られないところが多少しんどいところであった。
つづく。
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