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2023/10/29

2023・JR北海道の「今」【4】行き詰まる「バス転換」

 トラックドライバーの不足による物流問題、いわゆる「2024年問題」についてはこれまでも何度か触れてきたが、運転手が不足しているのはトラックに限ったことではない。旅客を輸送するバスの世界でも同様である。
 北海道内でも、天北線・標津線など、特定地方交通線としてバス転換された路線の廃止や分断が相次いでいる。収益事業であるはずの高速バスにおいても、運転手確保が困難であることから、10月1日以降、札幌-函館「高速はこだて号」が4往復削減され、札幌ー広尾「ひろおサンタ号」はほぼ無通告に近いタイミングで運行休止となった。都市圏でもJR北海道バスが昨年夏以降、ダイヤ改正ごとに減便・最終便繰り上げを実施し、今春ダイヤ改正で減便を実施した北海道中央バスは、今年の冬ダイヤで地下鉄並行路線を中心に路線廃止・短縮を実施する。


 こうした動きと合わせて、最近、JR北海道がバスへの転換を決定した単独維持困難区間や北海道新幹線開業に伴う並行在来線区間においても、想定バス運転本数を維持できない可能性が表面化し、たびたび報道されている。


 10月28日の北海道新聞によれば、北海道新幹線の並行在来線として廃止が予定されている長万部-小樽について、代替バスを運行予定の北海道中央バス・ニセコバス・道南バスの3社が、運転手確保の見通しが立たないことを理由として、北海道が示した代替バスダイヤ案に沿った本数の運行が困難であると道に伝えたとされている。
 道南バスは「高速はこだて号」の減便に伴い運行から撤退しており、北海道中央バスは都市部での減便を進めている当事者である。こうした中での今回の話は、現況を考える限り一定の理解をせざるを得ない。一方で、そもそも鉄道代替バスの案を道が策定するにあたって関係バス会社との間に綿密な連携をとらないまま地元に対して案を提示したことも浮き彫りとなったわけで、このあたりはどうにも解せない。

 
 道では、今後ほかのバス会社へ協力を求めるほか、利用者の少ない区間についてはタクシーなどバス以外での交通機関への転換も検討するとしているが、運転手が足りないのはどこも同じはずで、道内最大のバス会社が対応できないものがほかの会社に対応できるとも思えない。函館本線・余市-小樽などは、現状の輸送密度を考えてもバスの大幅増便が必要になると考えられており、所要の本数が確保できないとなれば、いったん決まった鉄道廃止に対して異議を唱えないとも限らない。


 3年後の全線廃止が決まっている留萌本線については、今春の石狩沼田-留萌廃止時に、留萌方面-深川・旭川への直行系統と、留萌周辺のデマンドタクシーが1日1往復程度整備されたが、廃止区間に並行する留萌-深川-旭川の道北バス・沿岸バスは5往復のまま据え置かれた。
 ところが、全線廃止時にも代替路線となるはずのこの路線は、利用の減少と赤字の増大を理由として沿線自治体との間で存廃協議をおこなっていることが明らかとなった。運行会社のひとつ、沿岸バスは「留萌-旭川線はたまたま旧留萌本線と並行しているだけで、鉄道代替バスとは認識していない」とコメントしたとされている。北海道庁・JR北海道は明確に「代替」という言葉を用いていないが、廃止後の交通機関を留萌-旭川線バスを基軸として整理するとしており、ここでも道とバス会社との間の感度にギャップが生じている。


 もちろん、鉄道廃止を撤回すれば問題が解決するという単純な話ではない。車両あたり、あるいは便あたりの輸送力において鉄道の方が勝っていることは事実だが、利便性確保のためには一定間隔で一定本数を運転しなければならないのはどちらも同じで、流動の少ない日中に空席の多い列車を運転しなければならないから単純に運転手を減らすことにはならない。
 労働力が不足しているのは鉄道も同じである。加えて、列車を運転するために必要な要員は運転士だけではない。運行管理や車両整備に係る人員が必要なのは列車もバスも同じだが、線路というインフラを自前で所有する鉄道の場合は、レールや電気設備を保持するための要員もまた自前で用意しなければならない。


 前回の記事でも触れたように、JR北海道では特に現場社員を中心に中途退社などによる人材流出が深刻化している。JR北海道に限らず、北海道内に拠点を置く企業の場合、過疎化が進む地方勤務を嫌って退職し、定住可能な企業や公務員への転身を図る若年層が増加傾向にある。JRの場合はこれに加えて保線という過酷な業務である。雇用情勢は全国的に「売り手市場」の状況にあるうえ、北海道では2024年春に大規模半導体工場が稼働開始することが決定しており、人材争奪戦も始まっている。保線人員が確保できない状況になれば必然的にJRも既存路線を維持できないことになり、その際、地方路線と都市圏路線のどちらに労働力を集中投下するかは誰が考えても明白である。


 ここにきて鉄道路線の廃止問題は、これまでの赤字負担を誰がするかという視点から、交通機関確保に必要な人員をどう確保するかという視点にシフトしてきた。全国的な状況がどのようになっているかは定かではないが、大阪で路線バス事業者が運転手不足を背景として廃業するというニュースもあり、あながち北海道だけの問題ではないのではないかと思っている。費用負担の問題を全く考慮しなくていいわけではないが、限られた労働力の中で必要な輸送力を確保するためには、これまでの単純バス転換の考え方から一歩進めて、輸送機関のモード間の適切な接続方法を模索しないと、都市間輸送も含めていずれ立ちいかなくなるような気がする。


 私自身にいい知恵があるわけではないけれど。



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JR北海道経営問題」カテゴリの記事

コメント

おはようございます。
天北線などほんとそう思います。
北海道を含めローカル線の道行はほんと厳しいですね。
交通網の発達と便利になったことによる人の流出、時代の流れと簡単に言えない問題ですし。
ココログの友達なくなりますが、引き続きブログでの交流をよろしくお願いします!

投稿: キハ58 | 2023/10/30 09:27

キハ58さん、ありがとうございます。

北海道の人口減少は札幌圏以外では軒並み加速度的に進んでおり、都市間路線ですら輸送密度は当時の特定地方交通線以下のところが多いです。加えて農産物を中心とする貨物輸送の問題もあり、物流2024年問題はひときわ深刻な状況です。
自分に何かできるわけではないですし、妙案があるわけでもないのですが、周辺業界にいる者として非常に気がかりです。

これからもよろしくお願いいたします。

投稿: いかさま | 2023/11/01 22:49

新システムになりいかさまさんのブログ登録したつもりが、
入れなくなっていました。やっと入れます。
今日もよろしくお願いします。

投稿: マーチャン | 2023/11/06 10:38

こんばんは。

人出不足は深刻ですね。
此方ではタクシーの運転手さん不足とニュースで。
今に映画にあった、ロボット運転手のタクシーが登場するかも?。

投稿: マーチャン | 2023/11/07 17:21

マーチャンさん
大変遅くなってしまいました。コメントありがとうございます。
これからも引き続きよろしくお願いします。

人手不足は一般企業も含めていずこも同じのようですが、輸送業界はバス・トラック・タクシーどこも相当厳しいみたいですね。
マーチャンさんのコメントを呼んで、一瞬、タクシーの運転手がペッパー君、と言う情景を想像してしまいました。

投稿: いかさま | 2023/11/23 23:07

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