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2023年12月

2023/12/24

2023 いい日旅立ち・西へ【2】33年ぶりの筑肥線で唐津へ

 前回の続き


 福岡市営地下鉄七隈線に乗り終えた後の次の目的地は、佐賀県の武雄温泉と長崎を結ぶ西九州新幹線である。順当に行くならば博多へいったん引き返し、JR鹿児島本線と長崎本線、佐世保線を乗り継いでいくのが最も早いし一般的である。当初は私もそのつもりだったのだが、時刻表の地図を眺めているうちに、唐津経由のルートをたどりたくなった。
 姪浜ー唐津の筑肥線、西唐津ー久保田の唐津線は、高校時代の1990年に乗ったきりである。所要時間は倍以上かかるが、西九州新幹線は翌日の朝乗る予定だから、多少到着時間が遅くなっても構わない。


 私は、天神から再び地下鉄空港線の姪浜行き電車に乗った。この電車も福岡市交通局1000形電車で、座席がさらりと埋まる程度の乗車率。空席に腰を下ろして、景色の見えない地下鉄線内を揺られる。
 地下から地上へ駆け上がった姪浜には14時25分着。ホームに降りると、どこかで見た夫婦がいる。福岡までの飛行機で隣だった老夫婦で、ご出身は唐津とのこと。お子さん2人のご夫婦と総勢6人の旅だと聞くと、実に微笑ましい。


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 9分後にやって来た筑前前原行きは、JR九州の305系電車。ブラックフェイスが印象的なこの車両は、33年前には当然いなかった。見通しの良い最前部に立つと、小柄な女性運転士が広い運転席できびきびと指差し確認をしている。運転席というよりは司令室のような雰囲気である。
 マンションが立ち並ぶ姪浜を出ると、一軒家主体の住宅街となり、駅間のところどころに雑木林が見えるようになる。地下鉄からJRに入ったが、すべての駅にホームドアが設置されている。

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 筑前前原には14時54分に到着。ICカードでいったん改札を出て、駅窓口で、西唐津から長崎までの乗車券を購入。農協Aコープと直結した駅のたたずまいを眺めてから,唐津行き普通電車に乗り継ぐ。唐津へ向かう家族も同じ電車に乗り込む。こちらはJR103系1500番台電車で、3両編成。1982年に筑肥線と地下鉄の乗り入れが開始されて以来現役の車両だが、現在、地下鉄への乗り入れの役割は305系電車に譲り、筑前前原-西唐津を行ったり来たりしている。乗客は段落としに少なくなり,1両に10人ほど。ロングシートに腰掛けると、暖房の入っている座席下が驚くほど熱い。国鉄型電車あるあるである。


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 筑前前原からは目に見えて住宅が減り,農地が増えてきた。線路も単線となり、乗り降りも少なくなる。大入あたりから玄界灘が近づいてきた。唐津生まれの奥様が、出入り口ドアの横に立って、いとおしそうにその景色を眺めている。虹の松原の古い小さな駅舎を見たご主人が、「昔と変わらないね」とぽつりと漏らした。
 東唐津で一家が下車すると車内に残る乗客はわずかとなった。松浦川越しに唐津城を眺めながら、15時55分、終点の唐津に到着。向かいのホームに停まっている2両編成の西唐津行きディーゼルカーに乗り換える客は少ない。筑肥線の半数ほどの電車が直通する唐津―西唐津の輸送密度は、コロナ前の2019年度で1,024人/km/日と唐津以東の5分の1しかない。


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 市街地を囲むように右へ弧を描きながら走ること3分、終点の西唐津に着く。線路はこの先、呼子線としてさらに先へ伸びる計画があり、路盤やトンネル工事が進んでいたが、1980年の国鉄再建法施行により工事が凍結された。線路が伸びるはずだった方向には車両基地が広がっている。してみると、唐津-西唐津は車両基地の「おまけ」で電化開業したようなものである。
 小さな駅舎は無人で、人影も少なく寂しい。この駅前には33年前にも立っているはずなのだが、当時の記憶とまったくリンクしない。唯一合致しているのは、当時の旅の記録に「何もない」と書いてあった、そのことだけである。以前にもそういうことがあったが、強烈な印象を与えたものを除けば記憶などあやふやなものである。



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2023/12/18

2023 いい日旅立ち・西へ【1】福岡市営地下鉄七隈線 1.6km

 11月25日、土曜日。札幌は前夜までの吹雪模様が嘘のように好天の朝を迎えた。このところ私自身はあまり行いがいい方だと思ったことはないが、前日まで続いた大きな仕事にそれなりに真面目に向き合ったご褒美かもしれない。空港連絡バスで新千歳空港へ行き、10時55分発のJAL3510便で、私は一路福岡へと向かった。


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 165名乗りのボーイング737-800はほぼほぼ座席が埋まっており、3人掛けの通路側に座る私の隣には、60代後半ぐらいと思しき上品な夫婦が座っている。ご家族で奥様の故郷である九州への里帰りとのこと。隣席の客とこうして話をするのも昨今では稀になった。
 飛行時間は2時間40分。ジオラマの中に足を踏み入れていくように、市街地に近い福岡空港へ向けて降下し、13時35分、定刻到着。南到着ゲートを出て一服した後、福岡市地下鉄の福岡空港駅へ降りる。およそ4年ぶりの本格的な乗り鉄旅のスタートである。


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 飛行機の定時到着とスムーズな乗り継ぎのおかげで、予定より2本早い13時52分発、姪浜からJR唐津線に乗り入れて筑前前原まで行く地下鉄空港線の電車に乗る。開業から走り続ける福岡市交通局1000形電車である。木目調の内装が、昭和50年代後半に流行した重厚感のあるインテリアの面影を残している。座席がほぼ埋まった車内で先頭部に立ち、博多まではわずか5分。ここで今回の目的である地下鉄七隈線の乗り場を目指す。


Fukuoka  福岡市3本目の地下鉄として2005年に開業した七隈線には、その翌年、2006年12月に乗った。当時の営業区間は天神南-橋本12.0kmで、空港線からの乗り換えは、同一駅として扱われた天神から地下商店街の中を7~8分歩いて天神南まで行く必要があった。
 天神南-博多の工事は2012年から始められた。途中、2016年に博多駅付近で大規模な道路陥没事故が発生したのは全国ニュースにもなった。この影響で工期は2年ほど遅れたが今年3月に開業、空港線との接続駅は博多となり、天神と天神南の乗り換え特例は廃止されている。


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 空港線博多駅と七隈線博多駅の乗り換え通路は長く、決して便利とは言い難いが、天神南での乗り換えの比ではない。普通に歩いても3~4分程度だろう。早足で2分ほどで七隈線ホームに着くと,ちょうど13時59分発の橋本行きの電車が出発するところだった。最後尾に乗り込み、滑るように過ぎ去るレールを眺める。都営大江戸線などと同じ鉄輪式リニアモーター方式で電車のサイズが小さいせいか,地下トンネルのつくりには余裕がある。わずかながら照明があって、トンネル内が明るいのも地下鉄では珍しい。


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 何度もカーブを切って進む電車で、2駅、4分ほどで天神南へ到着。1.6kmの未乗区間をまずは片付けた。ゆったりとした明るいホームには12年前にも降りているはずなのだが、全く印象に残っていない。私は12年前に辿った地下街を今度は逆に歩いて空港線天神駅へ向かった。ダークトーンでまとめられた地下街は、12年前の印象とはまったく異なっていた。土曜日ということもあって混雑しており、おしゃれなカフェなどつい引き寄せられそうになるが、悠長にティータイムを楽しむ余裕はない。盛りだくさんの計画を組んだ今回の旅、先はまだまだ長い。


 続く。


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