2023 いい日旅立ち・西へ【2】33年ぶりの筑肥線で唐津へ
前回の続き。
福岡市営地下鉄七隈線に乗り終えた後の次の目的地は、佐賀県の武雄温泉と長崎を結ぶ西九州新幹線である。順当に行くならば博多へいったん引き返し、JR鹿児島本線と長崎本線、佐世保線を乗り継いでいくのが最も早いし一般的である。当初は私もそのつもりだったのだが、時刻表の地図を眺めているうちに、唐津経由のルートをたどりたくなった。
姪浜ー唐津の筑肥線、西唐津ー久保田の唐津線は、高校時代の1990年に乗ったきりである。所要時間は倍以上かかるが、西九州新幹線は翌日の朝乗る予定だから、多少到着時間が遅くなっても構わない。
私は、天神から再び地下鉄空港線の姪浜行き電車に乗った。この電車も福岡市交通局1000形電車で、座席がさらりと埋まる程度の乗車率。空席に腰を下ろして、景色の見えない地下鉄線内を揺られる。
地下から地上へ駆け上がった姪浜には14時25分着。ホームに降りると、どこかで見た夫婦がいる。福岡までの飛行機で隣だった老夫婦で、ご出身は唐津とのこと。お子さん2人のご夫婦と総勢6人の旅だと聞くと、実に微笑ましい。
9分後にやって来た筑前前原行きは、JR九州の305系電車。ブラックフェイスが印象的なこの車両は、33年前には当然いなかった。見通しの良い最前部に立つと、小柄な女性運転士が広い運転席できびきびと指差し確認をしている。運転席というよりは司令室のような雰囲気である。
マンションが立ち並ぶ姪浜を出ると、一軒家主体の住宅街となり、駅間のところどころに雑木林が見えるようになる。地下鉄からJRに入ったが、すべての駅にホームドアが設置されている。
筑前前原には14時54分に到着。ICカードでいったん改札を出て、駅窓口で、西唐津から長崎までの乗車券を購入。農協Aコープと直結した駅のたたずまいを眺めてから,唐津行き普通電車に乗り継ぐ。唐津へ向かう家族も同じ電車に乗り込む。こちらはJR103系1500番台電車で、3両編成。1982年に筑肥線と地下鉄の乗り入れが開始されて以来現役の車両だが、現在、地下鉄への乗り入れの役割は305系電車に譲り、筑前前原-西唐津を行ったり来たりしている。乗客は段落としに少なくなり,1両に10人ほど。ロングシートに腰掛けると、暖房の入っている座席下が驚くほど熱い。国鉄型電車あるあるである。
筑前前原からは目に見えて住宅が減り,農地が増えてきた。線路も単線となり、乗り降りも少なくなる。大入あたりから玄界灘が近づいてきた。唐津生まれの奥様が、出入り口ドアの横に立って、いとおしそうにその景色を眺めている。虹の松原の古い小さな駅舎を見たご主人が、「昔と変わらないね」とぽつりと漏らした。
東唐津で一家が下車すると車内に残る乗客はわずかとなった。松浦川越しに唐津城を眺めながら、15時55分、終点の唐津に到着。向かいのホームに停まっている2両編成の西唐津行きディーゼルカーに乗り換える客は少ない。筑肥線の半数ほどの電車が直通する唐津―西唐津の輸送密度は、コロナ前の2019年度で1,024人/km/日と唐津以東の5分の1しかない。
市街地を囲むように右へ弧を描きながら走ること3分、終点の西唐津に着く。線路はこの先、呼子線としてさらに先へ伸びる計画があり、路盤やトンネル工事が進んでいたが、1980年の国鉄再建法施行により工事が凍結された。線路が伸びるはずだった方向には車両基地が広がっている。してみると、唐津-西唐津は車両基地の「おまけ」で電化開業したようなものである。
小さな駅舎は無人で、人影も少なく寂しい。この駅前には33年前にも立っているはずなのだが、当時の記憶とまったくリンクしない。唯一合致しているのは、当時の旅の記録に「何もない」と書いてあった、そのことだけである。以前にもそういうことがあったが、強烈な印象を与えたものを除けば記憶などあやふやなものである。
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