2023 いい日旅立ち・西へ【21】「奥出雲おろちループ」と木次線
前回の続き。
駅前で少し待つと、「奥出雲交通」の文字をまとったワゴン車がやって来た。12時53分発の八川線・三井野原行きのバスである。車内には誰も乗っておらず、乗車したのも私一人だけ。運賃は1乗車200円と安い。民間資本も入っているが実質奥出雲町営のようである。
小さな車内にはアナウンス放送もなく、次々と停留所を通過していく。乗客の気配はない。運転手によると「おろち号の運転日はそれなりに乗客もいたんですがねえ」とのこと。20分ほどで国道314号に張り付くように立つ出雲坂根駅前を通過し、「奥出雲おろちループ」へ向かう。
トンネルを抜けると、バスは緩やかに左カーブを描きながら、道路の下をくぐる。さらに一つトンネルを抜けると、先ほどの道路をまたぐ。右側にかすかに木次線の線路を望み、「道の駅 奥出雲おろちループ」をやはり乗客なく通過し、線路からもくっきりと見えた赤い三井野大橋を渡る。木次線はこの区間を大きな迂回と三段式スイッチバックで抜けたが、こちら国道314号はぐるりぐるりと円を2回描いて同じ標高差を登ったことになる。
13時22分、三井野原駅入口で下車。木次線の列車は八川から出雲坂根を目指して登っている頃である。列車なら15分あまりかかる出雲坂根-三井野原間を、バスは6分ほどであっさり駆け抜けた。民家のような瓦屋根の三井野原駅で、40分後にやってくる備後落合行きの列車を待つつもりだったが、時間をつぶすには、スキーのオフシーズンという条件を差し引いても、三井野原駅周辺はあまりにも何もなさ過ぎた。営業開始までまだ間のあるスキー場のゲレンデにはフィルムをはがしたパイプハウスが立っており、駅周辺のレストハウスと思しき店も当然のように休業である。
居場所がない感じで外に出てふらふらしていると、先ほどのバスが戻ってきた。駅の少し先にある集落まで行って折り返してきたらしい。13時22分発のそのバスに乗り、再びおろちループを抜ける。今度も客は私一人である。
13時33分に出雲坂根駅前に着くと、備後落合行きの列車がちょうど入ってきたところだった。出雲横田で21分停車し、タラコ色の1両を切り離して1両編成でやって来た列車は、運行終了前の「奥出雲おろち号」との行き違いがあった関係で出雲坂根でも18分停車する。
何人かの乗客が、出雲横田で消えたはずの私を見て不思議そうな顔をしている。彼らが列車に乗り続けている間に、私は「奥出雲おろちループ」を1往復してきたのだぞ、と自慢したくなる。
出雲坂根駅は、三段式スイッチバックとともに、「延命水」と呼ばれる湧水でも知られている。泉源が駅構内にあり、28年前に来た時には宍道方面行ホーム上で湧水が飲めたのだが、自動車での来客が増えたために駅舎の横に取水場所を移したらしい。道路を隔てた下にも取水場所がある。列車の乗客も、待ち時間の間にのどを潤している。
13時50分、発車。再び三段式スイッチバックを抜けて出雲坂根の駅舎を上から望み、さきほど往復した「奥出雲おろちループ」を眺めながら、何もない三井野原を過ぎ、14時33分、備後落合に到着した。この時間は木次線・芸備線新見方面・三次方面の3方面の列車が一堂に会する、山峡の閑駅唯一の「ラッシュアワー」である。木次線からの列車の乗客は、半々ほどの割合で三次方面・新見方面に分かれて向かう。
JR西日本でも一二を争う閑散線区の木次線は、2022年度の平均乗車人員が全区間で171人/km/日。出雲横田-備後落合間に限ればわずか54人/km/日である。JR北海道ならとうに廃線になっている。もともと薄かった陰陽連絡の役割は、広島方面との直通急行が廃止になった時点で消え、国鉄末期の廃止を免れた理由である「並行道路が未整備」も、1992年の「奥出雲おろちループ」開業をはじめとする道路整備の進捗で、その大義名分を失って久しい。「奥出雲おろち号」に代わって今春走り始めた観光列車「あめつち」は、出雲横田-備後落合には入線しない。
先日、JR西日本はこの区間について、「地域の利用実態に応じた持続可能な交通体系を地元と相談したい」との意向を表明した。廃止を前提としたものではないと強調しているが、額面通りに受け取る人は少ないだろう。地元自治体は警戒感をあらわにしている。
なお、私が今回実行した「出雲三成(列車)出雲横田(バス)三井野原(バス)出雲坂根」の往復堪能コースは、今年春のダイヤ改正で列車の出雲坂根停車時間が短縮されたこと、木次線ダイヤの修正に合わせてバス時刻が改正されたことから、現段階では成立しない。もし同じことを考えた人がいたとすれば、ご注意いただければ幸いである。
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コメント
私も出雲横田駅から代行バスでおろちループを通ったことがあります。
ほんと早いですよね。
出雲坂根駅に早く着いたので、見学できました。
でも、いかさまさんは路線バスですよね。良く調べましたね。
投稿: キハ58 | 2024/07/07 21:57
キハ58さん、ありがとうございます。
いつものことではありますが、同じ路線を行ったり来たりするのはつまらないので、何かほかに手段はないか、よそへ抜けるルートはないかと調べたところ、奥出雲交通バスに行きあたりました。
運賃も安いので、懐にも優しい結果となりました(笑)
投稿: いかさま | 2024/07/08 00:40