2023 いい日旅立ち・西へ【28】結ばれなかった鉄路~阿佐線の夢
前回の続き。
岬ホテル前バス停で待つこと5分あまり、14時58分にやって来た安芸営業所行きバスに乗り込むと、またしても車内は空。海岸に沿って国道55号を少し走ってから右へ分かれ、住宅街の中を走っていく。28年前に運転手が交代した室戸営業所前バス停も素通りで通過する。ここからほぼ真西に200mほどの海岸には「海の駅とろむ」があり、土曜・休日に限り阿佐海岸鉄道のDMVが1往復乗り入れてくる。
再び国道に戻り、途中、ところどころで国道を外れて集落へ入るが乗客はない。校舎の目の前に立派なロータリーが整備された室戸高校も、玄関の目の前にバス停のある室戸診療所も乗客なしで通過である。
私が乗ってから15分近く走った新村バス停でようやくひとり乗客があり、そこからパラパラと乗客があって、最終的には5人ほどが乗って16時ちょうど、奈半利駅に着いた。私はここで下車する。土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の終点で、立派な高架駅に来たのは12年ぶりである。ここから高知方面へは列車に乗って向かう。
ごめん・なはり線は、もともと国鉄阿佐西線として建設された。その名のとおり、阿佐海岸鉄道阿佐東線とは対をなしており、本来は阿佐線として、室戸経由で一本につながるはずだった。しかし、奈半利-甲浦間は工事に着手されないまま国鉄は解体され、工事が進んでいた海部-甲浦間は徳島県を中心とする阿佐海岸鉄道が1992年に、後免-奈半利間は高知県を中心とする土佐くろしお鉄道が2002年にと、それぞれ第三セクターが引き受けて開業した。中間を結んだのが高知県交通(現:高知東部交通)バスで、時刻表1995年2月号によれば高知市内-室戸岬-甲浦を直通するバスが1日5往復、安芸-甲浦間4往復(休日2往復)の区間便も設定されている。
私がこの区間を初めて通過した1995年2月の時点でも、乗客数を見る限り、阿佐線が1本で結ばれる可能性はほぼゼロだった。
阿佐東線の列車は小学生の社会学習でなんとか体裁をつくり、甲浦から室戸経由で後免町までのバスは、貸切タイプの立派な車両に乗客が10人を超えたのは、夕方通過した安芸付近からのわずかな区間だけだった。それから28年、阿佐東線はDMVという大量輸送性を半ば放棄した形態に代わり、甲浦~室戸~奈半利のバスは大半の区間で私ひとりだけを乗せて走った。
奈半利16時03分発の高知行き快速列車に乗ったのは、私の他に2人ほど。たった1両の車内はいっそう侘しい。それでも途中、安芸から学生が大量に乗車して、車内はにわかに活気づいた。沿線にはビニールハウスが連なっている。
土佐くろしお鉄道は路線ごとの輸送密度を公表していないのではっきりわからないが、ごめん・なはり線と中村-宿毛間の宿毛線を合わせた輸送密度が2019年度で848人。輸送人員はごめん・なはり線の方が宿毛線の倍程度あることから考えても、ごめん・なはり線の輸送密度は1,000人を超えていると思われる。決して安泰な数字ではないが、阿佐東線から比べれば一桁多い。
少し時間に余裕があるので、16時48分着の夜須で下車。高校生も10人ほどが一緒に降りた。高架式のホームからは、海岸に面して建つ「海の駅やす」が見える。一帯は「ヤ・シィパーク」と称される公園として整備されている。国道55号は線路を挟んだ内陸側を走っており、道路よりも駅からのアクセスの方が近いという珍しい立地である。ごめん・なはり線の駅には、各駅ごとにやなせたかし氏の描いたキャラクターが存在するが、夜須駅前にも「やす にんぎょちゃん」と名付けられた艶めかしい人魚のキャラクターが鎮座している。「ヤ・シィパーク」で毎年夏に行われる「ミスマーメイドコンテスト」にちなんだものだとか。
直売所を軽く眺めてから、16時56分発の奈半利行き快速列車で安芸まで少し戻る。2両編成で、こちらも学生がよく乗っている。
安芸駅の周辺は、前年仕事の関係で訪問しているが、駅に降り立つのは初めてである。駅前では「あき うたこちゃん」が出迎えてくれる。三角屋根の大柄な駅舎は、駅名とともに「ぢばさん市場」と掲げていて、駅舎内には野菜や食品の直売所がある。お土産物もあるが、比較的普段使いの野菜なども置かれており、地元客が立ち寄って買い物をしている姿も見受けられる。
最後は安芸17時40分発の高知行き快速。時刻表上は安芸始発だが、実際は奈半利から1両でやって来た列車にここで1両増結する形である。帰宅の高校生で、2両編成の座席はほぼ埋まり立ち客も出た。駅ごとに少しずつ乗客が減っていき、18時07分着ののいちで下車。ここで5日間続いた乗り歩きの旅は締め括りである。駅前ではピエロのような「のいちんどんまん」が出迎えてくれる。
私はこれから、高知空港19時30分発のFDAの飛行機で実家に近い県営名古屋空港(小牧空港)へ飛ぶが、のいち駅と空港を結ぶ「空港乗合タクシー」を予約してある。1乗車500円と、高知駅からのバスよりも安い。指定された乗り場へ行くと、普通のタクシーが待っており、私ひとりを乗せて空港まで10分あまりで運んでくれた。あとは飛行機に身をゆだねて、これも20年ぶりぐらいとなる小牧空港から実家を目指すのみである。
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コメント
こんにちは!
私も近々、高知旅行を計画しているのですが、FDAは静岡-高知便が無いので残念です。
中部国際空港まで行かねばなりません。
で、今、思案中です。
FDAに拘るのは、料金が安いからです。
私の様な年寄り(60歳以上)は、事前割引で約半額なんですよ。
ご存知でしたか?
投稿: FUJIKAZE | 2024/09/02 15:24
FUJIKAZEさん、ありがとうございます。
お返事が遅くなって申し訳ありません。
FDAは私も初めての利用でしたが、コストの割にサービスレベルもよく、感心しました。割引運賃もたくさん設定されていますね。
4月から10月までの限定ですが、丘珠―小牧間にも就航しています。実家への帰省に便利なので何度か利用しています。
せっかくの静岡拠点の航空会社ですから、各地に飛ばしてくれるといいのですけどね。
投稿: いかさま | 2024/09/08 23:38