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2024年9月

2024/09/29

2023 いい日旅立ち・西へ【完】

 私が鉄道全線完乗を達成したのは2018年の夏だが、このシリーズ冒頭でもふれたとおり、それ以降の私は「その年に開業した鉄道路線にはその年のうちに乗りに行く」という目標を立てていたにもかかわらず、新型コロナウィルスの感染拡大以降、ままならない状況になった。達成されたのは2019年だけで、以降はキャリーオーバーが毎年少しずつ残って今年に至っている。今回の旅は、ある種その鬱憤を晴らす旅であった。


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 今回の旅での福岡空港から高知空港までの移動距離は、バス・フェリーを含めておよそ1,490kmである。そのうち、新たに乗車したのは、福岡市交通局七隈線・博多-天神南間1.6km、JR九州西九州新幹線・武雄温泉-長崎間66.0km、熊本電気鉄道菊池線・熊本高専前-御代志間0.7km、広島電鉄宮島線・宮島ボートレース場-広電宮島口間0.2km、阿佐海岸鉄道阿佐東線・甲浦-甲浦信号場間0.1kmの計68.6kmである。全体の中ではわずかにすぎないが、、目的はすべて達成されている


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 その他にも、今回の旅では、かねて訪問したかった軍艦島に上陸することもできたし、30年来の懸案だった室戸岬灯台にも足を伸ばすことができた。ちょっと長めの休みをもらえたこともあり、木次線をはじめ、30年ぶりに形を変えた乗り歩きをできた路線も多い。実家にも、上の坊主のところにも寄ることができた。長い休みのおかげで、心身ともにリフレッシュするには十分な休暇になったことは間違いない。


 では「その年に開業した鉄道路線にはその年のうちに乗りに行く」という目標が達成されたかというと、実はそうではない。8月26日に開業した宇都宮ライトレール・宇都宮駅東口-芳賀・高根沢工業団地間14.6kmはこの時点で未乗のまま残った。さすがに12月押し迫って飛べるほど時間的にも経済的にも余力はないし、越年確定である。


 なるべく早めに乗りに行きたいとは思っているが、2024年も春になれば、北陸新幹線・金沢-敦賀間、北大阪急行電鉄南北線・千里中央-箕面萱野間の開業も控えている。
 毎度毎度の結論ではあるが、鉄道乗りつぶしというゲームは、影踏みのように追っては逃げられ、また追ってと際限のないゲームである。



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2024/09/23

いい日旅立ち・西へ【番外-2】結局、「DMV」とは何だったのか

 今回の旅の締めくくりに、阿佐海岸鉄道で利用した「DMV」についての雑感をまとめておく。


Dmv01 国内でDMVの本格的な開発を手掛けたのは、JR北海道である。ローカル線における利便性の向上や、集客エリアの拡大、観光利用の促進を目的に、2004年から日高本線、石北本線、釧網本線、札沼線などで試験走行が繰り返された。全国各地のローカル鉄道でも試験が展開され、ローカル線活性化の有力な手段になるかと思われた。


 しかし、JR北海道は、2013年に相次いで発生した旅客列車の事故により経営状況が悪化。安全対策を第一としてDMVなどの新規技術の開発を凍結し、2015年には実用化を断念、事業から撤退することになった。皮肉なことに、ローカル線の収支改善を目的とした研究がJR北海道の経営改善の「足かせ」となり、赤字ローカル線の廃止を加速させることになってしまった。その他の各社においても、導入には車両・地上設備に一定の投資が必要になることもあり、導入に踏み切る会社はなかなか現れなかった。


 鉄道とバスを比較したとき、鉄道の最大の弱点は、補助金などの制度があるにせよ、線路をはじめとしたインフラをすべて鉄道会社が維持していかなければならない点にある。これを賄うには一定以上の輸送量が必要である。
 旧国鉄再建法においては、旅客輸送密度4,000人/km/日、ピーク時1時間当たり片道輸送量が1,000人を下回り、代替道路がある路線は「特定地方交通線」として国鉄経営から分離することとされていた。輸送の効率化や合理化が進み、当時よりハードルは下がっているが、JR北海道は旅客輸送密度200人を下回る路線をバス転換対象とし、2,000人を下回る路線では自治体などによる支援が必要であるとしている。このあたりが「バスでの代替の可否」のボーダーラインと考えていいだろう。


 けれども阿佐海岸鉄道の利用状況を見る限り、それだけの輸送需要はない。そもそも立席を含めて定員21名のDMVが開業当初1日13往復で、1日当たりの輸送力からして546名。2024年3月のダイヤ改正では減便が実施され、1日8往復で336名である。運行時間は日中に集中しており、通勤・通学輸送はあまり配慮されていない。実際、2022年度の阿佐東線の輸送密度は101人、定期客は通勤・通学合わせて1名とのことで、朝夕のピーク輸送も存在しない。沿線には路線バスや高速バスが運行されており、DMV自体が甲浦から道の駅宍喰温泉まで折り返して運行されていることから考えても、並行する道路事情に関する問題もない


Dscn5865  つまるところ、阿佐海岸鉄道のDMV転換は、鉄道の存在意義自体を地元旅客輸送のためから観光目的に転換したものだと考えていい。これはこれでひとつの見識ではある。DMVへの転換が決まった時点で、転換後の阿佐海岸鉄道の年間収支は5,400万円の赤字になるとされていたが、年間の利用客は転換前の1.5倍、75,000人を見込み、地域への経済効果が2億円以上あると試算されていた。鉄道というインフラを守るために、より需要の高い方向へ舵を切ったのだろう。


 しかしながら、2023年度の阿佐海岸鉄道の経常収支は約9,700万円の赤字となった。新型コロナによる行動制限が緩和されたにもかかわらず、前年度より1,000万円ほど拡大している。しかもその過程の中で、意図的ではないとはいえ利用者数を水増ししていた事実も発覚した。年間利用客は予測の半分以下の31,000人程度である。この数値は鉄道時代の2019年度の52,000人さえ4割以上下回っている。新型コロナの影響があったとはいえ、この数字はあまりにも寂しく、予測自体の甘さも指摘される。 


 この実績に対し、阿佐海岸鉄道では「DMVは全国的にまだまだ知られておらず、プロモーションに力を入れていきたい」とコメントしている(2024年6月18日 NHK NEWS WEB)が、この種のものは全般に開業初年度が集客力のピークで徐々に減少していくのが常である。鉄道収支の赤字を補えるだけの経済効果があるかどうかは現時点では怪しい。沿線距離も短く、観光資源がそれほど豊富でない阿佐海岸鉄道が、DMV一本鎗で集客力を高めるのは難しいのではないかという気もする。


 こうしてみたとき、阿佐海岸鉄道に続いてDMVの導入を検討する鉄道会社はこの先現れにくいだろう。もとより、輸送密度がこれより大きい会社になると、ピーク時輸送に輸送力の小さいDMVではそもそも対応できない場面も想定される。二番煎じのDMVが集客力につながる可能性も低い。一般の鉄道車両と併用しながら地域のフィーダーサービスを担うということであればともかく、バスと鉄道の中庸をいく現状のDMVの在り方は、中途半端でしかなく、公共交通機関としてはこの先、ちょっと厳しいんじゃないかなあ、というのが、私の感想である。



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2024/09/08

2023 いい日旅立ち・西へ【番外-1】近鉄特急「ひのとり」

 5日間の鉄道旅行を満喫した私は、実家に2泊し、12月1日に息子の住む大阪へ向かった。大学合格直後にアパート探しに同行して以来である。



Img_5825  名古屋からの移動には、近鉄特急「ひのとり」を利用した。
 名古屋-新大阪間を50分足らずで結び、自由席で5,940円の新幹線に対し、近鉄特急は2時間~2時間半を要するが4,790円と安い。ひと昔前ならば金券ショップへ行けば回数券がばら売りされており、3,200円ほどで利用できた。


 だから私は、この区間の移動となると近鉄特急を利用するのが学生時代からの習性のようになっている。回数券の廃止で運賃・料金の格差は縮小傾向にあるが、近鉄特急は「快適さ」というもうひとつのアドバンテージを持っている。当時の近鉄特急は乗車してすぐにおしぼりサービスがあったし、インテリアには余裕と気品が感じられた。名阪ノンストップ特急に運用されていた「アーバンライナー」のデラックスシートは、400円ほどの追加投資でJRグリーン車並みの3列シートを利用でき、私のお気に入りだった。


 現在、近鉄の名阪特急は、津・鶴橋・大阪上本町に停車する「甲特急」が2020年に登場した「ひのとり」、途中主要駅に停まる「乙特急」が「アーバンライナー」でそろえられており、大変贅沢なラインナップである。「ひのとり」に乗車するためには、レギュラーシートで200円、プレミアムシートで900円の追加投資が必要になるが、せっかくの機会でもあり、「ひのとり」のプレミアムシートを体験してみたい。早い段階で私は近鉄名古屋発16時の特急券を購入し、最前列の席を確保しておいた。


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 近鉄名古屋駅の雰囲気が私は大好きである。行き止まり式の地下駅の雰囲気は、他の私鉄のターミナルとは一線を画しており、特急専用の4・5番ホームにはひっきりなしに特急電車が出入りする。15時30分に大阪難波行き「アーバンライナー」が、ウェストミンスターの鐘と「ドナウ川のさざなみ」に送られて発車すると、37分には鳥羽から、49分には大阪難波からの「アーバンライナー」が到着、乗客を降ろすと車庫へ引き上げていく。50分には鳥羽行き「サニーカー」が、ウェストミンスターの鐘と「八十日間世界一周」に送られて発車。この光景だけでも旅立ちのワクワク感が高揚する。


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 鳥羽行き特急が発車した後の5番線に、いよいよ「ひのとり」が入線する。深いメタリックレッドをベースにした塗装は気品があり、これまでの近鉄特急とは全く趣が違う。「ひのとり」のエンブレムも孤高の印象である。
 8号車後ろ寄りのドアから乗車すると、デッキのすぐわきにロッカーが並んでいる。その奥には、コーヒーやお菓子の自販機、おしぼりなどが置かれたサービスコーナーがある。乗務員による車内販売やおしぼりサービスはなくなったが、セルフサービスで残されている。このあたりが近鉄らしい配慮である。


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 階段を登ったハイデッカーになっている座席は、車体幅を一杯に使った大柄な3列座席が並ぶ。プレミアムシートの座席間隔はそれでなくても130cmと新幹線グランクラス並みに広いが、座席を一杯に倒しても後ろの人に迷惑が掛からない「バックシェル型」になっており、贅沢である。最前列の一人掛けに腰掛けると、大きな窓からの展望は素晴らしい。隣の二人掛けには、女性二人と小さな男の子が座っている。発車後、地下から地上へと駆け上がると、すぐに米野車庫の横を通る。「ひのとり」や先ほど引き上げていった「アーバンライナーnext」が休んでいる。男の子が嬉しそうな歓声を上げる。


 私も普段ならば車内の探索に出掛けるところであるが、前面展望の楽しさとシートの掛け心地の良さに、すっかり動く気力をなくしてしまった。「伊勢志摩ライナー」「ビスタカー」そして「観光特急しまかぜ」と、次々にすれ違う列車に退屈している暇もない。伊勢中川の短絡線を渡って大阪線に入る頃には、興奮し疲れたのか隣の男の子は爆睡である。そして私もうとうととしたらしい。気が付くと外は薄暗くなっており、列車はラストスパートに掛かっていた。


Dscn5928  大阪市内に入り、鶴橋、大阪上本町と停車し、18時05分、地下駅の大阪難波に到着した。列車は乗客を降ろすとすぐ、西方にある引き上げ線へ移動していく。発車も到着もあわただしいが、これもまた名阪特急のいつもの姿である。
 近鉄名古屋-大阪難波間で「ひのとり」のプレミアムシートを利用すると5,690円となり、新幹線との差は数百円レベルとなる。国鉄運賃が安かった時代にはこれで新幹線に旅客が逃げ、一時近鉄名阪特急は瀕死の状態だったのであるが、国鉄運賃の度重なる値上げにより息を吹き返した。
 運賃格差は再び縮小傾向にある現在だが、近鉄特急は価格差以上に快適性を指向しているように見える。よほど急ぐのであればともかく、グランクラス並みの車両に新幹線より1時間余計に乗れるだけでも十分に値があるように思う。
 



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