1995年・最後の長い汽車旅【8】電車寝台急行「きたぐに」の夜
小出からの普通電車は、165系急行形電車の3両編成。「湘南色」と呼ばれる、オレンジと緑のツートンカラーは、国鉄時代からのオリジナルカラーで、1960・70年代の急行列車全盛期の面影を残している。特急の増発とともに急行列車は減少の一途をたどり、この頃にはすでにローカル輸送が主な活躍舞台となっていた。登場から30年以上が過ぎ、どこか定年延長のような風情である。ちょうど退勤時間と重なっていたが、立ち客はなく、車内はさらりと席が埋まる程度で落ち着いていた。
きっぷのルートは、宮内で信越本線に乗り換えだが、18時27分着の長岡まで乗り越し。飛び出した区間の運賃は駅の精算所で支払う。みどりの窓口で今宵の宿、大阪行き急行「きたぐに」の寝台券を入手し、駅内の食堂で軽く食事を取った後、タウンページで探した駅近くの銭湯「毎日湯」へ歩いた。駅からは歩いて5、6分のところにあり、浴槽もそこそこに広く快適。昨夜風呂に入り損ねた分を補ってあまりあるほどゆっくりと浸かった。
急行「きたぐに」の長岡発は23時15分で時間に余裕があり、明朝は4時35分の敦賀で下車する予定なので、少しでも睡眠時間を長く取ろうと考え、長岡発21時32分の新潟行き普通列車に乗り、22時12分着の加茂で下車した。市の中心駅でありながら夜間は駅員不在になってしまう可哀想な加茂駅前には、意外にも、と言っては失礼だがコンビニエンスストアが頑張っており、軽い食料と飲み物を調達できた。
23時41分に現れた急行「きたぐに」は、希少価値の高い電車寝台583系電車。1960年代から80年代にかけては、昼は座席特急・夜は寝台特急として、さながらモーレツサラリーマンのごとく、東北や西日本・九州を駆け抜けた。新幹線の延伸で活躍の舞台は狭まり、定期運転の夜行列車としての使用は、この時点ですでに「きたぐに」だけになっており、2013年(定期運転は2012年まで)の列車廃止まで孤塁を守っていた。電車による夜行列車は現在も「サンライズ瀬戸・出雲」が運転されているが、夜行列車としての使用のみを前提として登場した「サンライズ」とは、そもそものコンセプトが全く異なる。
ホームで待っていた10人ほどの乗客とともに乗り込む。淡い青を基本とした塗装に改められていたが、近づいてみると外板がでこぼこしており、ずいぶんと厚化粧である。指定された寝台は、8号車14番中段。あえてこの場所を指定している。583系電車は上・中・下3段寝台が基本だが、1編成に何か所か、天井にパンタグラフが設置されている関係で上段寝台のない場所がある。そのひとつがここである。
梯子を上って寝台に入ると、パンタグラフの部分がせり出してきてはいるが、座高の高い自分が体を起こすことができるのだから、上段寝台なしの効果は十分である。残念なのは荷物の置き場がなく、幅70cmの寝台のどこかに置いて寝るしかないことくらいである。
発車直後、早速車掌が車内改札にやって来たので、急行券と周遊券を見せ、本来のルートから飛び出した加茂から宮内までの運賃を払おうとするが、事情が分からないらしい車掌は難しい顔をして「ふうん…」と言いながら切符を眺めるばかりである。いちいちこちらが説明し、何とか560円を受け取ってもらう。立場が逆で、漫画のようである。ともかく明朝は敦賀の手前で起こしてもらえるようなので、ぐっすりと眠ることにしよう。2夜続けての夜行である。
【過去記事】
さよなら「急行」、さよなら「きたぐに」。
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コメント
しっかりパン下だったのですね!
本当はもう少し先まで乗りたかったんじゃないですか?(^.^)
投稿: キハ58 | 2025/05/07 10:49
キハ58さん、ありがとうございます。
当然、確信犯です(笑)
実は客車も含めて、この後ついぞ三段寝台に乗る機会がありませんでしたので、体験しておくのも悪くなかったのでしょうが、どうせ同じお金を払うのなら少しでも快適な方がいい、と自然な選択になりました。
5時間そこそこではもったいないですよね。「電車寝台」というオプションがなければ、座席で仮眠したと思います。
投稿: いかさま | 2025/05/11 23:19