JR北海道経営問題

2025/07/07

JR北海道 2024年度の利用状況から見る現状

 久々に硬派な話


 7月4日、JR北海道は2024年度の路線・区間別利用状況をプレスリリースした。

 ⇒JR北海道のプレスリリース


 JR北海道は、去る5月9日に2024年度の決算をリリースしており、 それによれば、本業の鉄道運輸収入については766億円と、1997年度以来の水準を確保している。これは、バブル崩壊前後にほぼ近い実績で、JR北海道38年の歴史の中で4番目に高い。ちなみにJR北海道としての最高は、1996年の800億円である。
 一方で、鉄道事業にかかる費用は、昨今の物価上昇や、人件費・修繕費などの増加により、こちらも増加している。結果、営業利益は前年度から7億円改善したものの、567億円の赤字となり、経営安定基金運用益や国からの支援でそれを埋めている図式は変わらない。


 今回発表された線区別の利用状況と照らし合わせてみると、非常に興味深い。2020年初頭の新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、JR北海道に限らず、鉄道会社は大幅な旅客減に見舞われた。その後の行動様式の変化や、2023年5月の5類移行により回復傾向は顕著となり、このところの円安水準によるインバウンド需要も、私たちの日常生活にとって良いか悪いかは別として、目に見える形で拡大している。


 けれども、旅客輸送量は、コロナ前の2018年度の水準まで回復していない。これはJR北海道に限ったことではなく、世間の景気動向に大きく影響を受ける東海道新幹線においても、2025年の輸送人キロは2018年度比98%にとどまっている。
 JR北海道の場合、2018年度と比較して輸送密度が大きくなっているのは、千歳線・室蘭本線(白石-苫小牧 102%)、根室本線(滝川-富良野 109%)のみである。もともとの分母が小さい根室本線を別にすると、インバウンド増加に対応した快速「エアポート」の拡充や、北広島市への「エスコンフィールド」来場者輸送などの恩恵を受けた千歳線以外は、軒並み減少している。特急列車が頻発する区間や、札幌都市圏であっても、2018年度との比較で86~95%程度、JR北海道全体では96%の実績である。


 それでも鉄道運輸収入が2018年度より増加しているのは、2019年以降の運賃改定や、いわゆる「おトクなきっぷ」の見直しや「えきねっと」への誘導策が一定の効果を上げ、旅客単価が上昇したことが背景にあると考えられる。紙ベースの割引きっぷが大幅に縮小されたことには賛否両論が噴出していたが、ネット限定の割引きっぷの設定などによる一定の利便性は確保されており、効率化を追求していく中ではやむを得ない側面もある。2024年3月のダイヤ改正で、「北斗」「おおぞら」「とかち」などの特急列車から自由席をなくした措置も要因としてはあるだろう。


 特急の全車指定席化は、今年度中にJR北海道の全特急列車に拡大される。少し前までは、特急列車に自由席があるのは当たり前と思われていたが、歴史を紐解けば、元来、優等列車である特急は全席指定が基本であった。特急列車に自由席が導入されたのは、新幹線「こだま」が最初だったとされ、自由席本位だった急行列車の格上げによる「エル特急」がその方向性を決定づけた。
 私は個人的に、特急料金には速達性の他に快適性の対価という性質もあると思っているので、車内の平穏が確保されるのであれば全車指定席に異論はない。「実質値上げ」と批判を浴びもしたが、「えきねっと」を利用すれば、実質的に自由席利用と大差ない金額となることもある。


 要するに問題は、コロナによる行動制約がなくなり、インバウンド需要がこれほど爆発しても、コロナ前の利用者数が回復していないという、その根本の部分にある。行動変容の問題ももちろんあるだろうが、少子高齢化が通学輸送に依存するローカル線にとどめを刺していった時代が終わり、今後は就労人口の減少や根本的な人口減少により、幹線輸送の分野にまでそれが及んできていると見ることができる。インバウンドをはじめとする観光需要でそれをカバーできる路線・線区は残念ながらすべてではない。


 言うまでもないが、鉄道の存続は、それを必要とする利用客があって初めて語られる。貨物の問題も同様である。全体的な移動需要は縮小傾向にあっても、複数の輸送手段が競合的に存在しているところもある。けれどもその恩恵を享受できるのは都市部の住民だけである。
 バスのドライバーの絶対数が不足する中、都市間高速バスの維持が困難になっている地域も出始めている。一方では、収益性の高い都市間高速バスに運転手を集中させ、路線バスの廃止や再編、減便を進めている会社もある。交通機関同士の有機的な結合を抜本的に論じなければ、問題は解決しないように思う。



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2024/05/12

JR北海道決算と北海道新幹線開業延期の余波

 JR北海道は5月8日、2023年度の決算をプレスリリースした
 

 JR北海道グループ全体の当期純利益は33億円となり、前年度の164億円の赤字から改善、4期ぶりの黒字決算となった。JR北海道単体としても8年ぶりの黒字決算となる18億円の当期純利益をあげた。
 もちろん黒字といっても、鉄道運輸を中心とした営業損益が赤字であり、経営安定基金運用益や国からの補助金などの補填を受けての結果である図式はこれまでと変わりはない。経営安定基金運用益は株高により21億円増加、補助金の受入額は減少したものの、前年度に計上されていた留萌本線・根室本線の部分廃止にかかる費用が減少したことなどで、特別損益も139億円改善している。


 一方で、本業である鉄道運輸収入も、コロナ5類移行、円安によるインバウンドの増加、北海道日本ハムファイターズの本拠地移転などを要因として需要が増加し、前年度から113億円改善して698億円となった。コロナ前の2019年度の700億円台には達していないが、明るい兆しは見えつつある。ただし輸送人員では同期比89%と、完全に回復軌道に乗ったとはいいがたい。
 前年関連事業においても、一昨年9月のパセオ、昨年8月のエスタ閉店に伴い不動産収入が前年度より減少したが、小売業・ホテル業は収支改善し、全体の営業損益は前年から72億円改善している。


 鉄道運輸収入のうち、北海道新幹線は77億円で、前年より21億円改善し、コロナ前の2019年度の実績に達した。ただし、その年の路線別収支状況では、93億円の赤字となっており、今年度の数値は未公表だが、「走れば走るだけ赤字」の状況は変わっていない。
 この収支状況を劇的に改善するのが北海道新幹線の札幌延伸であるというのは周囲の一致した見方であったが、5月8日、工事の主体である鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)は、2030年度末までの完成を断念する意向を国土交通省に報告した。


 このこと自体は以前からささやかれており、札樽トンネル(新小樽-札幌)の要対策度の処理をめぐる着工遅れ、羊蹄トンネル(長万部-倶知安)の岩盤除去などで、すでに工期は4年程度遅れていると言われていた。またこの先、工事にかかる人員・機材・資材の不足も工事への影響が想定される。北海道内では、新幹線延伸工事と並行した各駅周辺の再開発事業が本格化している。これに加えて、千歳市では、道内企業としては過去最大の投資となる半導体工場の建設工事も始まっている。現場で工事にあたる作業員の減少は続いており、働き方改革による労働時間制限も、工事にとっては逆風になる。


 加えて、2030年の札幌冬季オリンピックの招致断念が決まったところで、工事を急ぐ大義名分もなくなり、2030年度の開業延期は既定路線と考えられるようになった。鉄道・運輸機構は「あえて言えば数年単位の遅れ」として、新たな開業時期を明示していない。工事費も資材価格や人件費の増嵩で1.5倍に膨らむ試算が出されている。経済・金融政策も含めて国の無策には腹が立つけれど、現状を冷静に認識すれば致し方ない状況である。


 このことは、JR北海道の自力再建が予定より遠のいたことを意味する。
 新幹線が万能でないことは認めるが、北海道新幹線は札幌までの延伸で初めてその効果を最大限に発揮するのは間違いない。現在の輸送密度は4,000人台だが、札幌延伸で15,000人前後まで上昇するとの試算がある。これは決して無理な数字ではない。鉄道運輸収支の改善はもちろん、小売・ホテル業などの関連事業も含めれば、その影響は計り知れない。


 けれども開業が数年単位で延期となれば、その間、北海道新幹線だけで確実に毎年80~90億円の赤字は垂れ流される。人の流れが変わらなければ、駅前再開発だけが進んだところで経済効果は知れている。建設費の高騰もあり、すでに駅前の再開発ビルは工事期間の延長や規模の縮小が俎上に上っており、JR北海道以外の民間による再開発にもその影響は及んでいる。JR北海道は2031年度を目途としていた経済自立(国の支援を受けずに純損益を黒字化する)目標を見直す方針を固めたと地元紙は報じている。


 私の勤め先は札幌駅に近く、工事の進捗状況をつぶさに眺めることができる。札幌駅東側の空き地には工事業者のプレハブが立ち並び、高架橋周辺では工事が粛々と進んでいる。一方で、2023年度内に解体開始とされた旧エスタビルは、表の看板類は取り外されたものの、躯体に着手する様子はまだ感じられない。とある建設業者からは、「エスタビルの強固な躯体を活用することで工事費の圧縮を図る案が出ている」という怪情報も漏れ聞いた。60歳の定年までに、様相を一変した札幌駅から新幹線で東京出張するのが私のひそかな期待であったが、残り8年、その期待は徐々にしぼんでいる


 もうひとつ気になるのは、並行在来線問題である。新幹線の開業延期で、函館本線・新函館北斗-長万部-倶知安-小樽の寿命はおそらく延びることになるのだろうが、新幹線開業までの廃止が決定した長万部-小樽はともかく、国・北海道・JR北海道・JR貨物の4者協議で2025年度中には結論を出すとされている新函館北斗-長万部については、開業が延期したことで議論がトーンダウンする懸念もある。むしろ時間的猶予ができたからこそ、拙速でなくしっかりと議論をしたうえで方向性を決めてほしいと思う。



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2024/04/01

「本線」の末路~根室本線・富良野-新得廃止

 3月31日、またJR北海道から歴史ある路線がひとつ姿を消した。根室本線・富良野-新得である。


 道央エリアと釧路・根室を結ぶ鉄道路線は、まず旭川と釧路から整備が進められた。1907年に、狩勝峠を含む落合-帯広が開業して1本につながり、「釧路線」となって、道央と道東を結ぶメインルートが完成した。
 1913年に滝川-富良野が開通して滝川-釧路が「釧路本線」に改称され、こちらがメインルートとなる。旭川-富良野は「富良野線」となって現在に至っている。釧路本線が根室に達して「根室本線」となったのは1923年のことである。


 つまり富良野-新得は、1907年から道央・道南と道東を結ぶ幹線の一部を形成する重要な路線であった。これは1981年10月に千歳空港と新得の間を短絡する石勝線が開業するまで続いた。
 石勝線の開通により、札幌と帯広・釧路を結ぶ特急列車はすべて石勝線経由となった。滝川経由の優等列車は、急行「狩勝」が存置されたものの、1990年に滝川で系統分割されて快速格下げとなり,道央・道東連絡の役割を終えた。


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 滝川ー富良野ー新得は、空知、上川、十勝と三つの振興局にまたがっているが、札幌-帯広・釧路という大需要を失ったこの区間で、それぞれの流動は太くない。特に今回廃止となる富良野ー新得の流動は小さい。
 私は今から11年前、当時日本で最長時間を走る普通列車であった2429D(滝川ー釧路)に通しで乗ったことがあるが、滝川からの50人近い旅行客は富良野ですべて下車してしまい、富良野ー新得は20人たらずの乗客だけを乗せて狩勝峠を越えた。

 ⇒滝川発釧路行き・2429Dの旅(1) 滝川→富良野


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 2016年の8月、相次いで北海道に上陸した3個の台風は,空知川の堤防を越えて南富良野町の市街地を冠水させ,東鹿越と幾寅の間で線路を押し流した。以来この区間を含む東鹿越ー新得はバスによる代行輸送となった。仮の終着駅となった東鹿越は、正面に人造湖のかなやま湖、背後に石灰石の鉱山を背負う寂しい駅で、2016年6月には利用客が少ないため翌年ダイヤ改正での廃駅が地元に申し入れられていたが、台風による大きな被害から辛くも逃れたため、代行バスの乗換駅として生き延びた。
 けれども、特に被害の大きかった東鹿越から先の区間は復旧の手が付けられることはなかった。辛くも生き延びた区間も含め、富良野-新得は、JR北海道の再建に向けた、いわゆる「赤線区間」に含まれており、同様の状況からのちに廃止された日高本線(鵡川-様似)の状況を見る限り、この区間の趨勢は決まっていた。


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 廃止となる区間には、ドラマや映画の舞台になった駅もある。
 富良野の隣、布部は、ドラマ「北の国から」に登場した。連続ドラマの第1話、東京から富良野にやって来た黒板一家が最初に降り立ち、その後も何度か登場している駅である。玉ねぎ畑に囲まれた小さな駅舎の無人駅だが、駅前には、ドラマ原作者、倉本聰さんの筆による「北の国から 此処に始る」の看板が立っている。最終日の31日には倉本聰さんもお越しになられたそうである。


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 幾寅は、映画「鉄道員(ぱっぱや)」の舞台になった。高倉健さん演じる佐藤乙松駅長がが雪の日も列車を直立で送り続けた幌舞駅のロケ地である。南富良野町の小さな市街地に近い駅で、駅前には撮影で使用されたディーゼルカーのカットボディが置かれている。
 現実世界で健さんが亡くなった時には、駅舎の中に献花台が設けられて、たくさんの花に飾られた。布部も幾寅も、駅舎はこの後も保存されるのだろうと思うが、列車がやって来ることはなくなる。


 長い歴史を有し、素晴らしい風景を見せてくれる鉄道路線がなくなるのは非常に寂しい。けれどもそういった情だけを燃料にして列車は走ることはできない。沿線人口は減り続け、布部や幾寅の駅に現れる観光客も大半は車という現実を背景に、鉄道存続を声高に叫ぶことは、所詮夢物語でしかない。仮に私が富豪であれば買い取って列車を走らせることも考えたいが、これもまた夢物語を超えた壮大なホラでしかない。
 最終列車の汽笛を沿線の人々はどんな思いで聴いたのだろうか。



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2023/10/29

2023・JR北海道の「今」【4】行き詰まる「バス転換」

 トラックドライバーの不足による物流問題、いわゆる「2024年問題」についてはこれまでも何度か触れてきたが、運転手が不足しているのはトラックに限ったことではない。旅客を輸送するバスの世界でも同様である。
 北海道内でも、天北線・標津線など、特定地方交通線としてバス転換された路線の廃止や分断が相次いでいる。収益事業であるはずの高速バスにおいても、運転手確保が困難であることから、10月1日以降、札幌-函館「高速はこだて号」が4往復削減され、札幌ー広尾「ひろおサンタ号」はほぼ無通告に近いタイミングで運行休止となった。都市圏でもJR北海道バスが昨年夏以降、ダイヤ改正ごとに減便・最終便繰り上げを実施し、今春ダイヤ改正で減便を実施した北海道中央バスは、今年の冬ダイヤで地下鉄並行路線を中心に路線廃止・短縮を実施する。


 こうした動きと合わせて、最近、JR北海道がバスへの転換を決定した単独維持困難区間や北海道新幹線開業に伴う並行在来線区間においても、想定バス運転本数を維持できない可能性が表面化し、たびたび報道されている。


 10月28日の北海道新聞によれば、北海道新幹線の並行在来線として廃止が予定されている長万部-小樽について、代替バスを運行予定の北海道中央バス・ニセコバス・道南バスの3社が、運転手確保の見通しが立たないことを理由として、北海道が示した代替バスダイヤ案に沿った本数の運行が困難であると道に伝えたとされている。
 道南バスは「高速はこだて号」の減便に伴い運行から撤退しており、北海道中央バスは都市部での減便を進めている当事者である。こうした中での今回の話は、現況を考える限り一定の理解をせざるを得ない。一方で、そもそも鉄道代替バスの案を道が策定するにあたって関係バス会社との間に綿密な連携をとらないまま地元に対して案を提示したことも浮き彫りとなったわけで、このあたりはどうにも解せない。

 
 道では、今後ほかのバス会社へ協力を求めるほか、利用者の少ない区間についてはタクシーなどバス以外での交通機関への転換も検討するとしているが、運転手が足りないのはどこも同じはずで、道内最大のバス会社が対応できないものがほかの会社に対応できるとも思えない。函館本線・余市-小樽などは、現状の輸送密度を考えてもバスの大幅増便が必要になると考えられており、所要の本数が確保できないとなれば、いったん決まった鉄道廃止に対して異議を唱えないとも限らない。


 3年後の全線廃止が決まっている留萌本線については、今春の石狩沼田-留萌廃止時に、留萌方面-深川・旭川への直行系統と、留萌周辺のデマンドタクシーが1日1往復程度整備されたが、廃止区間に並行する留萌-深川-旭川の道北バス・沿岸バスは5往復のまま据え置かれた。
 ところが、全線廃止時にも代替路線となるはずのこの路線は、利用の減少と赤字の増大を理由として沿線自治体との間で存廃協議をおこなっていることが明らかとなった。運行会社のひとつ、沿岸バスは「留萌-旭川線はたまたま旧留萌本線と並行しているだけで、鉄道代替バスとは認識していない」とコメントしたとされている。北海道庁・JR北海道は明確に「代替」という言葉を用いていないが、廃止後の交通機関を留萌-旭川線バスを基軸として整理するとしており、ここでも道とバス会社との間の感度にギャップが生じている。


 もちろん、鉄道廃止を撤回すれば問題が解決するという単純な話ではない。車両あたり、あるいは便あたりの輸送力において鉄道の方が勝っていることは事実だが、利便性確保のためには一定間隔で一定本数を運転しなければならないのはどちらも同じで、流動の少ない日中に空席の多い列車を運転しなければならないから単純に運転手を減らすことにはならない。
 労働力が不足しているのは鉄道も同じである。加えて、列車を運転するために必要な要員は運転士だけではない。運行管理や車両整備に係る人員が必要なのは列車もバスも同じだが、線路というインフラを自前で所有する鉄道の場合は、レールや電気設備を保持するための要員もまた自前で用意しなければならない。


 前回の記事でも触れたように、JR北海道では特に現場社員を中心に中途退社などによる人材流出が深刻化している。JR北海道に限らず、北海道内に拠点を置く企業の場合、過疎化が進む地方勤務を嫌って退職し、定住可能な企業や公務員への転身を図る若年層が増加傾向にある。JRの場合はこれに加えて保線という過酷な業務である。雇用情勢は全国的に「売り手市場」の状況にあるうえ、北海道では2024年春に大規模半導体工場が稼働開始することが決定しており、人材争奪戦も始まっている。保線人員が確保できない状況になれば必然的にJRも既存路線を維持できないことになり、その際、地方路線と都市圏路線のどちらに労働力を集中投下するかは誰が考えても明白である。


 ここにきて鉄道路線の廃止問題は、これまでの赤字負担を誰がするかという視点から、交通機関確保に必要な人員をどう確保するかという視点にシフトしてきた。全国的な状況がどのようになっているかは定かではないが、大阪で路線バス事業者が運転手不足を背景として廃業するというニュースもあり、あながち北海道だけの問題ではないのではないかと思っている。費用負担の問題を全く考慮しなくていいわけではないが、限られた労働力の中で必要な輸送力を確保するためには、これまでの単純バス転換の考え方から一歩進めて、輸送機関のモード間の適切な接続方法を模索しないと、都市間輸送も含めていずれ立ちいかなくなるような気がする。


 私自身にいい知恵があるわけではないけれど。



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2023/10/10

2023・JR北海道の「今」【3】札幌冬季五輪招致断念の「余波」

 10月6日の北海道新聞は、札幌市が2030年冬季オリンピックの招致を断念し、目指す招致時期を2034年以降に転換する方針を固めたと報じた。
 このこと自体は別段驚くことではない。商業化・肥大化の一途をたどり、建設コストの高騰も続く中、札幌市民の間でも招致賛否は相半ばしていると言われる。加えて、2021年の東京オリンピックに絡む汚職・談合事件の表面化を受けて、札幌市としても積極的な機運醸成活動の当面休止を余儀なくされていた。11日に札幌市とJOCの間で会談が持たれて、公式に表明されるとみられる。


Dscn1128  その翌日、今度は同紙の1面に北海道新幹線の「30年度札幌延伸 延期へ」の文字が踊った。
 北海道新幹線・新函館北斗-札幌間の延伸工事は、2030年度末(2031年3月頃)の開業を目指して工事が進められていた。この日付だけ見れば、北海道新幹線の開業と、2030年2月開催予定のオリンピックの間に直接の関係はないように見えるが、仮に2030年冬季オリンピックの札幌開催が実現した場合、政治的な判断により新幹線の工事が加速するであろうことは、これまでの東海道新幹線・北陸(長野)新幹線の例を見ても明らかである。


 実際の工事は、長万部-倶知安間の羊蹄トンネル掘削工事が複雑な地層と巨大な岩塊群に阻まれて2年以上停止しており、工期遅れは約4年とされている。つまりこの時点で2030年開業どころか2031年開業も怪しい状況だったわけだが、これまで関係者は工事の遅れには言及しても開業の延期には表立って触れてこなかった。すでに公共による駅前再開発や、周辺の民間投資は新幹線札幌開業を前提として進められており、開業延期が北海道経済に与える影響は大きい。そのあたりも含めて、これまで口を濁してきたものが、オリンピック招致断念で工事を急ぐ理由がなくなったということなのだろう。だがそれにしてもこの記事は手回しが良すぎる。


 北海道新幹線延伸の延期は、これを当て込んできたJR北海道の今後にも暗い影を落とすことになる。
 ひとつは北海道新幹線そのものによる営業収支の改善である。新函館北斗-札幌の輸送密度は17,000人程度と試算されており、開業がもたらす収入増は年間400億円に達する。これに対する営業費は、受益額を基に算出される線路の貸付料も含めてどの程度になるかは定かでないが、相当の収支改善につながる可能性は高い。開業時期が遅れれば、新青森-新函館北斗の年間50億円あまりの赤字がその分、垂れ流されることになる。


Img_5411  もうひとつは、札幌駅再開発への影響である。大丸札幌店・ステラプレイス・JRタワーホテル日航札幌の入る「JRタワー」、札幌駅地下街「アピア」、それに新幹線工事に伴い閉鎖された「パセオ」と先日閉鎖された「札幌エスタ」は、JR北海道の子会社である「札幌駅総合開発」が所有・運営している。
 札幌駅総合開発からJR北海道が受け取る土地賃貸料は、2019年度で年間約37億円あったが、「パセオ」11億円、「エスタ」9億円分が施設閉鎖により減収となる。2028年度末と言われる新ビルの開業までこの状況は続くことになるが、新幹線の開業が延期となれば、集客予測やテナントの誘致構想に影響を与えることも予想される。


Dscn1010  そしてもうひとつが並行在来線をはじめとする不採算路線への対応である。今回の新幹線問題とは別に、新型コロナの影響などにより維持費負担のあり方の決定が来年度以降に先送りされる見通しとなっており、それだけでも採算改善を急ぐJR北海道の足かせになっているのだが、並行在来線の経営分離時期が遅れれば、これもJR北海道に当面の負担としてのしかかる。
 廃止が決まったはずの函館本線・長万部-小樽間については別の角度から存廃論議が再浮上している。これについてはまた後日触れようと思うが、以上のような視点から、JR北海道が描いてきた経営改善への道筋は大きく狂うことになるのは間違いない。


 着々と工事が進む札幌駅周辺の風景をいつも目の当たりにしている私としては、できれば現役サラリーマンのうちに新幹線が札幌に来てほしいと切に願っているのであるが、ここにきて雲行きが怪しくなってきた。工期が長引けば建設費への影響も大きくなるだろうし、どうせ高くつくのならさっさと造ってしまえばいいのに、とも思うが、金を突っ込んでも人や機械が集まらないというのが昨今の状況のようである。大手を振って新幹線で東京へ出張する私の姿はまだ思い描けない。



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2023/09/26

2023・JR北海道の「今」【2】進む世代交代、進まない世代交代

 JR北海道が発足して37年目、そのうち私が時を共に過ごして33年目になる。様々な課題を抱えて赤字が膨らみ苦境に喘いでいるが、これだけの年数が経過すると、車両の世代交代はゆっくりではあるものの着実に進んでいる。


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 今年3月のダイヤ改正をもって、特急「オホーツク」「大雪」で運用されていたキハ183系と、特急「北斗」で運用されていたキハ281系の2種のディーゼルカーが運用を外れ、廃車となった。
 キハ281系は、昨年9月にも記事に書いたが、1994年に特急「スーパー北斗」でデビューして以来、一貫して函館-札幌で運用されてきた車両である。最高速度130kmで、最速列車は途中東室蘭だけ停車の2時間59分運転で、表定速度は並み居る電車特急を抑えて国内在来線トップだった。一連の事故やトラブルの影響で最高速度は120kmに制限され、停車駅の増加と北海道新幹線開業によるルート変更で、末期は最速3時間34分と輝きは失われたが、1990年代、JR北海道が最も輝いていた頃の看板列車であり、その存在は「にわか北海道民」の私としても非常に誇らしかった。


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 キハ183系は、1979年に登場した国鉄型車両である。私が北海道に来た1991年当時、「北斗」「おおぞら」「とかち」「オホーツク」と北海道内のディーゼル特急列車はすべてキハ183系による運転であった。それだけにひときわ愛着は深い。
 大別して登場当時の「スラント形」と呼ばれる非貫通タイプの前期型と、貫通扉がついた後期型に分かれる。エンジン出力を強化したタイプをはじめ新製時の仕様や改造によって多様なタイプが存在し、「ジョイフルトレイン」と呼ばれた「ニセコエクスプレス」「クリスタルエクスプレス」「ノースレインボーエクスプレス」もキハ183系の仲間である。新型車両への置き換えにともない徐々に淘汰が進み、2018年以降は運用列車が「オホーツク」「大雪」のみとなった。最後の1年はJR発足当時の塗装に塗り替えられたが、先頭車・グリーン車の各1両だけというのがいかにも現在のJR北海道の状況を示している。


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 キハ183系の引退により、JR北海道に定期運用される国鉄時代からの車両は、キハ40形・キハ54形による普通列車のみとなった。ステンレス製で国鉄末期製造のキハ54形は別として、キハ40形も新型ディーゼルカーH100形への置き換えが進んでおり、JR北海道発足時に157両が承継されたものが60両あまりまで減少している。資金力ではるか上を行くJR東海などとは比較すべくもないが、着実に世代交代は進んでいる。


 一方で気になるのは、世代交代が進まない「人材」の部分である。
 2013年9月に函館本線大沼駅で発生した貨物列車の脱線事故は、JR北海道のレール検査データの改ざんをはじめとする保線作業の杜撰さをあぶりだす契機となったが、この事故から10年が経過した現在、社員の流出が深刻化している。全体で6,000人ほどの社員のうち4%近い232人が中途退職しており、そのうちの約4割、94人が保線を含む電気・工事部門である。車掌などの運輸部門を含めると単年度で150人の現場社員が会社を去ったとされており、路線廃止などの影響を考慮してもきわめて深刻な状況である。


 国鉄末期からJR初期にかけて新規採用が抑制されたことにより、現場レベルでの技術の継承が進まなかったことが2013年の事故の一因とされているが、今度はそもそも列車を動かすために必要な人材そのものが確保できなくなる危機に直面していると言っていい。昔は鉄道と言えば安定した職場の最たるものと言われたが、ことJR北海道に関する限り、一連の事故を契機として経営の悪化が表面化したことや、そもそも夜間や除雪などの重労働があること、道内全域での異動があることなどが、若年層の社員の離職や新卒採用の困難の要因となっていると、9月18日の北海道新聞は伝えている。


 何年か前にJR北海道の課長級の社員の方々と酒を飲む機会があったのだが、その際にこんな話を聞いた。
 JR各社は、いわゆる「鉄道マニア」の就職を拒む傾向があった。民営化により総合企業への脱皮を目指すJR各社では、鉄道に偏重した思想の人間を採用することは、鉄道事業の効率化・合理化と事業の多角化を進めていくうえで会社の成長を阻害する要因になると考えていた節があったようである。
 それは当時、北海道内での就職先として高い人気を誇る一方で閑散ローカル線の廃止を進めていたJR北海道でもそうだったし、おそらく本州三社などは今でもそういう傾向にあるのではないかと思う。しかしその結果、本業の鉄道が厳しい局面になった時、鉄路を守る視点から真に鉄道のことを考えられる社員がいないという事態を招いたという。


 鉄道マニアの全てが見境なくローカル線廃止絶対反対を謳っているわけではない。むしろ冷静な視点と蓄積した知識から今後の鉄道のあり方を考えている人だってたくさんいる。
 「いかさまさん、今から来てくれるのならば即採用ですよ」という先方の言葉は社交辞令にすぎないと思う一方で、100%冗談であるようにも受け止められなかった。けれども、私にも今の会社に対する恩義もあるし、単身火中の栗を拾いに行ったところでどうなるものでもない。どうせなら25年前に「採用」の二文字を聞きたかったが、所詮は当時の私の力とアピール力の不足がすべてである。



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2023/09/19

2023・JR北海道の「今」【1】

 新型コロナの5類引き下げにより、全国どこもかしこも人の姿が戻って来た。北海道もその例外ではなく、内外含めて観光客の姿が戻ってきた結果、特に夏休み期間中は、インターハイが開催されていた影響もあるのだろうがホテルの宿泊料が暴騰し、狭いビジネスホテルで1泊2万円を超える宿泊料を取られたと嘆く声が聞こえた。そもそもホテルが取れずに日帰りした人もいる。


 JR北海道の8月18日付プレスリリースによると、お盆期間(8月10日~17日)の都市間輸送実績は、主要4線区で前年比150%(うち北海道新幹線160%)と前年度を大きく上回り、新千歳空港駅の乗降人員も前年比128%となっている。新千歳空港駅についてはコロナ前の2018年と比較しても105%となり、2020年に実施した快速「エアポート」の増発がここにきてようやく効果を現したようである。しかし、主要4線区の利用実績は2018年との比較では86%にとどまっている。石北本線の土砂災害による特急「オホーツク」「大雪」運休の影響もあろうが、中長期的に見ると都市間輸送の漸減傾向は変わっていないとみることができる。


 2022年度のJR北海道単体の決算は、営業収益729億円に対して営業費用1,368億円で差し引き639億円の営業損失。営業外損益・特別損益等を加味し、当期純利益は180億円の赤字となっている。2021年度の当期純利益は9億円であったから大幅に悪化しているが、これは主として前年実施した経営安定基金の評価益の実現の反動と、路線廃止による特別損失によるものである。
 鉄道運輸収入は2021年度から182億円増と回復基調である。ただし、あくまでもこれは前年度との比較であって、新型コロナの影響がほぼなかった2019年度との比較では83%、120億円下回った状態になっている。


 一方で、営業費用が53億円増加したため、営業損益は前年度から123億円の改善にとどまった。この主要因は動力費の値上げである。私たちの家計が電気や燃油の値上げで圧迫されているのと同様、営業費用の増加分のおよそ半分、28億円が動力費で、前年比151%の大幅増となっている。車両面では旧型車両の淘汰が進んでおり、ある程度の燃費の改善は見込めるのだろうが、単価の値上がりはいかんともしがたい。


 このほか、関連事業収入が前年度から6億円減少している。これは新幹線工事に伴い昨年9月で閉鎖となった札幌駅高架下「パセオ」の賃貸料がなくなったことが主因である。2023年度は、今後あらためて触れるが8月末でエスタが閉店し、9月末にはバスターミナルも閉鎖される。JR北海道が頼みの綱とする新幹線を迎え入れるために、向こう5年間にわたって賃貸収入が大幅に減少するのは皮肉であるが、しばしの我慢である。


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 近年の課題となっている不採算路線の取扱については、2022年度末で留萌本線・石狩沼田-留萌(35.7km)が廃止となった。2022年8月の沿線自治体とJR北海道の合意により、残る深川-石狩沼田(14.4km)も3年間の猶予期間を経て2026年度末で廃止となることが決まっている。
 根室本線・富良野-新得(81.7km)についても、今年3月30日に沿線自治体とJR北海道が廃線に合意し、2024年3月末をもって廃止となることが決まった。これにより、JR北海道が単独維持が困難な区間として公表した路線のうち、いわゆる「赤線区間」と言われる4線5区間295.4km(すでにバス転換協議が進んでいた石勝線・新夕張―夕張を除く)の処遇がすべて決定したことになる。


 JR北海道が単独維持困難としている区間は、この他にも「黄線区間」と呼ばれる輸送密度200人~2,000人の区間がある。地元自治体との連携によりさまざまな利用促進策が展開されているが、目立った実績が挙げられなければいずれ存廃論議へ進む可能性もある。
 また、北海道新幹線の開業と引き換えにJR北海道から切り離される「並行在来線」についても、旅客が激減予測の一方で貨物の大動脈となっている函館(新函館北斗)-長万部の存続の方向性が国・道・JR貨物・JR北海道の四者協議でまとまったが、経営主体や想定される赤字補填の方法についてはまだこれからである。加えて、廃止の方向で協議が進む長万部-小樽については、バス運転士不足を背景として代替バスの運行がままならない可能性も浮上しており、経営上の課題は山積である。


 国鉄時代に約4,000kmあった北海道の鉄道路線は、赤線区間の廃止により3年後には2,200kmあまりとほぼ半分になる。根室本線は、並行在来線の廃止あるいは経営分離以外の理由では初めて、中間区間が廃止されて分断される路線となる。運行形態上はもう40年も前から石勝線と新得以東の根室本線が一体となっており、線名だけを見たところで、だからどうだ、という話にしかならないが、石勝線開通までは本線として特急「おおぞら」などの優等列車も行き交った区間であり、災害により不通となったまま廃止を迎える姿はあまりにも不憫である。
 が、これがJR北海道の現実である。さらに言えば、おそらくこの先全国的に加速していく不採算区間における鉄道のあり方見直しの序章にすぎないという気もする。



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2022/09/20

もうひとつの「ローカル線」問題~北海道新幹線と並行在来線【2】函館-長万部の課題

 前回の続き。


Dscn5149  北海道新幹線の並行在来線区間となる区間のうち、函館-長万部については、2021年度の輸送密度が1,636人(コロナ前の令和元年度で3,397人)であるが、新幹線アクセスの機能を有する函館-新函館北斗を除けば、その大部分は函館と札幌を結ぶ特急「北斗」に負っている。北海道新幹線並行在来線対策協議会(以下「協議会」)第8回渡島ブロック会議に提示された資料によると、新幹線札幌開業後の新函館北斗-長万部の輸送密度は195人、開業後30年経過した2060年度には86人まで減少すると試算されている。いわゆる「赤線区間」相当である。


 8月31日におこなわれた協議会の第9回渡島ブロック会議では、JR北海道から初期投資・資産譲渡を含めた収支見通しが提示された。この中には、特急列車の廃止により事実上不要となる藤城線(七飯-大沼の勾配緩和用の迂回線で、中間に駅はない)の廃止も見込まれている。全線を第三セクター鉄道化した場合、初年度の2030年度で14億円の赤字、30年間の累積赤字は816億円と試算されている。全線バス転換の単年度2.8億円、30年累積157億円(これでも相当の額だが)と比べても負担は格段に重い。会議の中でも地元自治体の長からは鉄道を残すことに積極的な意見は見られなかった。それはそうだろう。旅客輸送だけを考えればそうなるのは当たり前である。


Dscn5157  問題は貨物輸送である。2020年貨物地域流動調査(国土交通省)によると、この区間を跨いで輸送される貨物は年間で4,989万t、うち鉄道輸送は396万tで、全体の貨物量におけるシェアとしては8%弱と決して大きくはないが、5tコンテナ換算で約80万個、1日2,000個以上がこの区間を往来している。この区間に設定されている貨物列車は1日20往復。特急「北斗」の倍近い


 特に北海道から本州への輸送量で大きなウェイトを占めるのが農畜産物輸送である。北海道開発局が実施している「農畜産物および加工食品の移出実態調査」によると、令和2年(暦年)の北海道から本州への移出は、生乳・花きを除いて322万t、うち86万tが鉄道輸送で、シェアは27%である。基準期間が異なるため一概には比較できないが、北海道から本州への鉄道貨物輸送量197万tのうち、4割以上を農畜産物・加工食品が占めていることになる。
 食料自給率を確保するためには北海道からの円滑な農畜産物輸送が不可欠である。国土交通省「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」においては、5月に開催された会合でホクレン農業協同組合連合会がヒアリング対象となり、鉄道輸送の重要性について言及している。


 この会合においてもう一つ興味深いのは、同じくヒアリング対象として防衛省が招かれ、有事に際しての装備品・補給品等の輸送手段として鉄道の重要性を訴求している点である。戦前の鉄道幹線網が主として貨物輸送を目的として整備されていったことは有名である。1942年(昭和17年)に開通した関門トンネルは、軍事輸送のために工期が圧縮され、連合国軍の攻撃により船舶輸送が壊滅的な状態となる中、終戦まで貨物輸送を継続した。今またそうした状況に巻き込まれることは誰しも望んでいないはずだが、ウクライナ情勢が緊迫化し、ロシアとの関係が悪化する中、防衛の側面からの鉄道の有用性は真剣に議論されてよいのではないかと思う。


 いずれにせよ、こうした状況を考えると、函館-長万部の存廃問題は、これまでの並行在来線問題とは様相を異にする。東北・北陸・九州の各新幹線では、一定の旅客流動を背景として鉄道は存続されてきた。唯一の廃止区間となった信越本線・横川-軽井沢については、ローカル輸送はもともと少なく、貨物については上越線や中央本線などの代替輸送経路もあることから大きな問題には至っていない。
 ところが、函館本線の五稜郭-長万部は、北海道と本州をつなぐ唯一無二の鉄道輸送ルートであり、この区間の存廃問題は地元自治体以上に北海道全体、とりわけ貨物の主要荷主である農業・工業関係者にとって深刻な問題なのである。


 9月12日、国土交通省がこの区間の存廃問題について、北海道・JR貨物・JR北海道との4者協議を始めると報じられた。沿線自治体による旅客輸送の協議とは別に進められる模様だが、貨物輸送の側面から国が並行在来線問題に乗り出すのは異例である。
 北海道の鈴木直道知事は、9月13日の定例会見で「貨物存続は国が中心となって検討するもの」と述べた。JR貨物はこれまでの線路使用料のルールから考えて大幅なコスト負担は受け入れない。JR北海道は並行在来線のルールに則って粛々と経営分離の準備を進めている。異例の決定は前例となり今後の同様の問題に影響を与える可能性もある。この区間の方向性はまだ見えてこない。


※(10月3日追記)江東の住人さんのご指摘により、2030年度の新函館北斗-長万部の輸送密度予測に関する資料を再確認し、記事を修正しました。



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2022/08/28

もうひとつの「ローカル線」問題~北海道新幹線と並行在来線【1】長万部-小樽は廃線へ

 JR北海道におけるもうひとつの「ローカル線問題」は、2030年度に開業を迎える北海道新幹線に関する「並行在来線」である。


 1990年の政府・与党申し合わせにより、整備新幹線の開業により経営が悪化する在来線区間については、整備新幹線の運営を引き受けるJRの負担を軽減するために、地元の同意を得たうえで廃線あるいは経営形態の変更が認められる、ということになった。
 これにより、1997年に開業した北陸新幹線(高崎-長野)では、信越本線の横川-篠ノ井がJRから分離され、横川-軽井沢は廃止、軽井沢-篠ノ井は第三セクター鉄道に転換した。その後開業した東北新幹線(盛岡-新青森)・北陸新幹線(長野-金沢)・九州新幹線(博多-鹿児島中央)・北海道新幹線(新青森-新函館北斗)でも、一部の区間が第三セクター鉄道に引き継がれている。変わったところでは、9月に開業する西九州新幹線(武雄温泉-長崎)は、肥前山口-諫早で鉄道施設を県が管理し、JR九州が列車を運行する「上下分離方式」を採用している。


Niseko  北海道新幹線・新函館北斗-札幌の開業に際しては、函館-新函館北斗-長万部-倶知安-小樽の函館本線が並行在来線としてJRから分離されることとなっている。新幹線のフィーダー路線のイメージが強い函館-新函館北斗が含まれているのは意外だが、経営分離後にこの区間だけがJRの「飛び地」として残っても具合が悪いだろう。一方で、札幌近郊区間である小樽-札幌については、JR北海道が引き続き運営することとなっている。


Dscn2303  並行在来線区間のうち、長万部-倶知安-小樽(140.2km)は、全般に勾配やカーブが多く、沿線人口密度も低い。メインルートの室蘭本線が有珠山噴火のため不通となった2000年3月末から3か月間にわたり、特急列車や貨物列車が迂回運転されたが、1986年以来定期特急列車の運転はなく、秋の一時期に臨時特急が走る以外は、基本純然たるローカル区間である。2021年度の輸送密度は340人/km/日で、年間約28億円の赤字となっている。


 今年2月、長万部-余市の沿線自治体は鉄道による存続を断念してバス転換することで合意した。余市-小樽については、通勤・通学輸送を中心に片道1,000人近い利用客があることから、鉄道存続を求める余市町が廃止に難色を示し、小樽市も態度を保留していたが、3月末に廃止に合意、長万部-小樽の全線がバス転換されることが決まった並行在来線区間の廃止は、信越本線・横川-軽井沢以来の2例目となる。


Dscn2309  さらにこの区間内にあって新幹線駅が整備される予定の倶知安町は、駅周辺の再開発との関係から、新幹線開業を待たず廃止時期の前倒しを要望している。新幹線の恩恵が薄い周辺自治体が同調するかは不明だが、こうなると並行在来線問題とは別次元の話となり、いわゆる「維持困難区間」と同様の様相を呈してくる。一方で、いわゆる並行在来線区間の経営参画や費用負担の責務はJR北海道にはなく、「維持困難区間」廃止後の代替交通機関に対するものと同様の支援をJR北海道から得られるわけではない。廃線後の代替交通機関整備は自治体とバス会社がその中心となって検討を進めることになる。


 これらの沿線自治体と札幌の間には、ニセコ・倶知安3往復、仁木・共和・岩内15往復、積丹2往復の高速バスが運転され、いずれも途中停留所の全てで乗降が可能である。余市からはこれらすべてが利用できるほか、余市までの区間便も含めて21.5往復と、人口2万人弱の自治体としては利便性が高い。
 この他余市-小樽には路線バスも1日30往復程度が運転されており、昨今の地方バス路線の状況を考えればはるかに恵まれた環境である。とはいえ、片道1,000人近くのJR利用客がその足を失うとなれば、単純計算で片道20便のバスを増発しなければならない。その多くは朝夕の通勤通学時間帯に偏ることになる。運輸業界は慢性的な運転手不足が続いており、必要な運行本数が確保できるかも焦点となる。


 私は昨年、この区間を走る臨時特急「ニセコ」に函館から札幌まで乗り通した。また、それより3年前、長万部-倶知安を普通列車で移動したこともある。線区内流動は少なく、平日日中と言うこともあり、普通列車の客は少なかった。臨時特急もこの区間内での乗降はほとんどなく、どちらかと言えばその筋の人専用の感が強かった。1904年以来100年を超える歴史を有するこの区間だが、鉄路としての膨大な維持費という現実の前に、歴史や郷愁などは無力であることをひしひしと思い知らされる。

 続く。


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2022/08/16

JR北海道「維持困難線区」は何処へ【10】「赤線区間」決着へ

 久しぶりに時間ができたので、とびきり濃い目のやつを。


 このところ出張などでJR北海道の列車を利用することが少しずつ増えてきたが、利用状況は少しずつ改善に向かっているようである。空席の目立っていた特急列車の利用状況にも変化が見え始めており、快速「エアポート」などもかなり混雑がみられるようになっている。第7波と呼ばれる感染拡大期と夏休みがぶつかり、行動する側としては心配もないわけではないが、ここしばらく鉄道の惨状を見せつけられてきたファンの立場としては、若干の安堵もある。


 けれども、JR北海道の経営状況は引き続き厳しさを増している。2021年度の鉄道運輸収入は403億円。過去最悪の状況であった前年の354億円から49億円改善しているものの、コロナが深刻化する前の2019年度との比較では6割に満たない状況となっている。実質的な国による補助である経営安定基金の貸付運用益を含めても単体での経常利益は105億円の赤字である。


 JR北海道の大きな収入源である札幌都市圏輸送は、テレワークの増加などの行動変容の影響を受け、2019年度に約23億円だった赤字額が2021年度は約150億円に拡大している。今冬の豪雪では、長期の運休や除雪費用の増加にも見舞われた。
 もうひとつの柱である札幌を中心とした都市間輸送も、輸送密度(1日1kmあたりの輸送人員)が最も高い旭川方面(岩見沢-旭川)で、2019年度比約55%の4,180人と低迷が続く。函館方面(長万部-東室蘭)、帯広方面(南千歳-帯広)は2021年度はそれぞれ2,197人・1,902人と、JR北海道の区分で言うところの「黄線区間」(輸送密度2,000人未満)レベルまで落ち込んでいる。本家の「黄線区間」である宗谷本線(名寄-稚内)、根室本線(釧路-根室)はいわゆる「赤線区間」(輸送密度200人未満)並みの輸送量になってしまっている。


 こうした中,今年に入ってJR北海道の「赤線区間」について、次々と動きがあった。


Dscn1568   4月1日に鵡川-様似(116.0km)が部分廃止となった日高本線と同様に、災害不通となっている区間を含む根室本線の富良野ー新得(81.7km)については、2020年に国が示したJR支援の対象に含まれなかったことから、沿線4自治体は昨年7月以降、JRとの存廃協議を進めてきた。最終的にはJRが求める運行費用の負担に耐えられないことから、各自治体の首長は1月28日、同区間の存続断念、バス転換を容認する方向に舵を切った。具体的な廃線時期は未定だが、住民説明会なども開催されており、早晩結論が出されることになるだろう。
 この区間の廃止で、根室本線は、新幹線開業による並行在来線分離を別とすればはじめて、廃止により分断される路線となる。


Dscn1615 2016年に末端区間の留萌ー増毛を廃止した留萌本線は、残存しているについても廃止の方向が固まった。JR北海道は7月21日、振興局界をまたぐ石狩沼田ー留萌(35.7km)については2023年春の廃止、空知総合振興局管内で通学利用が比較的多い深川ー石狩沼田(14.4km)は3年間の猶予を持つという案を沿線4自治体に提示した。留萌市は早い段階から廃止容認の姿勢を打ち出しており、残る3自治体に配慮した結果だが、各自治体は早ければ8月中にも受入の回答をするものとみられる。
 石狩沼田以遠の廃止で、日高振興局管内に乗り入れない日高本線同様、「名は体をなさない」路線となる。日高本線は根元の区間が残ったが、輸送密度は387人と厳しい戦いを強いられている。一方の留萌本線は、3年後には路線名そのものが地図上から消えることになる。


 2016年7月にJR北海道が「『持続可能な交通体系のあり方』について」と題する資料を提示し、次いで11月に「当社単独では維持することが困難な線区について」で具体的路線を明示してから間もなく6年、「赤線区間」と呼ばれた3線3区間の方向性はおおむね決まった。
 経営改善に向けて一刻も廃止を急ぎたいJR北海道と、地元の足の確保のため存続の可能性を探る地元との間ではさまざまな応酬が繰り返されてきたことは想像に難くない。鉄道ファンとしては残念の一言に尽きるが、新型コロナウィルスの影響で北海道内のみならず全国的に鉄道の利用状況に翳りが生じる中では他に選択肢はない。新橋-横浜間の開業から今年150年を迎える鉄道は、かつてない困難に直面している。



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