いかさまトラブラー【10】珍トラブル編(4)
今度は他人のトラブルを救った話。
5年前の海外研修期間中の出来事である。
週末にかけてイタリアのミラノに滞在した私は、フリーの日曜日、「ユーロスター・イタリア」に乗ること2時間、芸術の街、フィレンツェへと出掛けた。
行き止まり式のフィレンツェ・SMN駅のコンコースを歩いていると、
「すみません…」と声を掛けられた。日本語である。こんなところで日本人に声を掛けられるとは思っていなかったので、大いに驚くと、20代半ばの女性が立っており、「携帯電話の充電器をお持ちではないですか」と問われた。あいにく充電器はミラノのホテルに置いたままで、持ち歩いてはいない。
話を聞くと、彼女(Sさん)は、イタリアへの飛行機の中で知り合ったYさんという女子大生と意気投合し、フィレンツェ観光を共にする約束をした。ところが、携帯電話万能の世の中で、待ち合わせの場所をしっかり決めていなかった。いざ連絡を取ろうとすると、携帯電話のバッテリーは空になっている。電話番号は電源の入らない携帯電話のメモリの中である。番号が分からないから公衆電話から掛けることもできない。
Sさんが悲しげに見つめる携帯電話をよく見ると、機種こそ違うが同じメーカーの製品である。ひょっとして、と思い、裏蓋を開いてみると、バッテリーの型式は見事に一緒。そこで私のバッテリーを外してTさんの携帯電話に装着、無事に電源の入った電話からYさんに電話をかけることができた。
他人がこうしたトラブルに遭遇していると何とかしてあげたいと思うのが人の常だと思う。私自身、幾多のトラブルを必ず誰かに助けられて乗り切ってきた。まして場所は海外、他に頼れる人もなく、言葉も不便で心細かろうと思えば猶更である。おまけに相手は若い女性である。
Sさんの話を聞くと、とにかく手当たり次第に日本人に声をかけようと思ったという。その最初のひとりが同じメーカーの携帯電話の持ち主だった私。これは彼女にとって幸運この上ない出来事である。
かくしてSさんとYさんは無事対面を果たすことができ、救世主となった私は、若い女性2人と1日、フィレンツェ観光を楽しむことができた。私にとっても幸運この上ない出来事であった。
後日談だが、この話は「いかさまトラブラー【6】」へとつながる。すなわち、このとき教えてもらった彼女たちの連絡先は、例の失くしたメモ帳に書き付けてあった。現地で撮った写真を送ることもできず、彼女たちとの縁はこれで途切れてしまったかにみえた。
けれども世の中便利になったものである。ここ数年ほど、Facebookを検索しているうちに彼女たちの所在を知ることとなり、昨年東京へ行った際、4年ぶりの再会を果たすことができた。看護師のSさんは結婚し、女子大生だったYさんはネイルアーティストとして働いている。私は相変わらず組織の底辺でもがき続けている。思い出すだけでも目尻が下がる楽しい思い出話は、最終電車まで続いた。
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